中華街はクリスマス準備。
イルミネーションが張り巡らされ、ライトアップの仕掛けに忙しい。
だけど赤い提灯は中国の正式なお祭りの代用品で漢字でおもいきり
横浜ほどクリスマスが似合う街もない。ライトアップされた幻想的な赤レンガ倉庫のクリスマスマーケット。みなとみらい、横浜ランドマークタワー、マリンタワー、山下公園、関内・馬車道・元町・伊勢佐木町、桜木町のイルミネーション、山手町の西洋館。数え上げたら切りがない。
そしてどこで楽しんだとしても食事は中華街となるパターンで、異国のお祭りでも有数のかき入れ時には違いなかった。
だが恋人達は一流ホテルに、家族連れはメイン通りの大型飯店に取られるらしく、
誰かとクリスマスを過ごすなんて考えたこともない。だけど、街の活気にそんな俺でも心をかき立てられる。少し早いけれど自分へのクリスマスプレゼントでも買ってみよう。
キャンディー貿易商会。だから足が止まった。
「ヒロユキ。またなんか買ってくれるのか?」
『デイビス・K・アレン』商談用のテーブルには日本風に氏名を逆にしたプレートがある。ここは一見、普通の中国雑貨の店にも見えるが置いているモノが一風変わっている。なにせ店主が、元海兵隊員のアメリカ人なのだ。
「ここに置いてある青竜刀、本物じゃないだろうな」
「んなわけあるかい。まあ金次第で仕入れないこともないけどな」
「怖いこと言うなよ。それでなくても最近、本物見たんだからさ」
「ああ、池袋の
「流石に早耳ね」
「外を見てみろ。パトカーがいつもの10倍は走ってる。おかげで危ない品物を店頭に置けねぇよ」
「パトカーだけじゃない。私服警官がうようよしてる……」
「おいおい。ネームプレート付けてるわけじゃないんだからそんなもん見分けられるわけがないだろ? ヒロユキは最近、おかしな事ばかり言うし、おかしなモノばかり買う。商売繁盛でこっちはありがたいけどアルヨ」
この街に魅せられて定住する外国人は沢山いる。そしてそれは、米国人がもっとも多い。日本人を除けばであるが……
中華街はかつて食事をする場所ではなかった。
外人バーひしめく
戦後は物資が不足する中で唯一、戦勝国特権で中華街に物が集まった。
いわゆる進駐軍払い下げで潤い、外国船員や米兵が闊歩した。
朝鮮・ベトナム戦争時には、中国人や韓国人が経営する売春宿に日本人の売春婦が大挙して働き、船便での麻薬の密売ルートができあがった。利権を求めて中華系、朝鮮系、日本人のヤクザが入り込み、まさにカオス。つねに血の流れる街だった。
この店はそんな時代の名残とも言える。デイビスは当初、神戸で暮らして居たが、戦後すぐから続くここキャンディー貿易商会の老齢になった親戚である店主から店を引き継ぐ形で移り住んだ。こうして全部がスペードの
「ガラスの眼球でもどうだ?」
「冗談きついよ。…………おっ!」
「お目が高いなヒロユキ。それは映画の中で最後の皇帝、
そう……クリスマスは恋人達や家族のものだって誰が決めた? そんなの……
「関係ないねっ!」
やっぱ、ハマでこのセリフを言うなら、サングラスがないと話にならない。