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第23話 突然の雷雨

 道中、中華街名物の爆竹が破裂するような突然の雷雨に襲われた。今や日常になりつつある異常気象にはうんざりするが、運良く、目的の場所にはたどり着いていた。庇から垂れる雨粒は如何にも冷たそうだけれど、秘密の話をするならその方がいい。




「今回は隠し口座でも借金抱えた人間の消息でもないようだね。随分と毛色の違う話じゃないか。どういうことだろうね? 羅森ラシン

「さあ、わかりかねますが……」

「そのなんとか言うヤクザ者の情報は確かなのかい」

「本名、鎌倉英二。通称、鉄玉。広域暴力団の三次団体の構成員です。新宿を拠点にして事務所を構えています。ご存じのように新宿はごった煮の群雄割拠です。最近、勢いがあるとは言われていますが、それほど目立った存在でもありません」

「ホウヮ? じゃあ本当にこの子が調べてるってのかい?」

「どうでしょう。鉄玉は経済ヤクザではありませんが、なにか新しい金儲けの手段を見つけて彼に依頼しているだけかもしれません」

 今日は珍しく美紫メイズがいる。なにやら相談しているようで即決しない。羅森ラシン一人のときのほうが良かったかと後悔した。後悔したが……何語を喋っているのかさえわからない状態ではどうすることも出来なかった。


 薄暗い。時として雷光がフラッシュを焚くようにふたりを明るく照らす。

 見た目は老いてしょぼくれたキツネと丸っこく太り煤けたタヌキの組み合わせ。

 だが違う。本質を知れば、自分に口を挟む余地はない。畏怖への言い訳。


 自分が融通するのは、自分がなにも持っていないからだ。言葉は飾りに過ぎない。言葉が通じないことは本質的なことじゃない。雷鳴と雨音の隔絶した空間だからこそそれがよくわかる。自分など本来、関わってはいけない種類の人間で、それは鉄玉にも同じことが言えるだろう。

 …………なのに不思議だ。不思議な高揚感がある。抑揚のない顔をしながら怯えた目をしながら、心の中でキャハっと笑い出しそうな自分がいる。



「依頼内容はいつも的確で報酬も高水準です。今までのトータルの金額も馬鹿になりません。受けて良いのではないでしょうか。特に今回は現金でもありますし……」


羅森ラシン。水の流れの表面だけ見るんじゃないよ。もっと深い底を……金の動きをよく見定めるんだね。ウチに支払う金額が大きすぎる。スネークアイが抜く割合もたかがしれてる。ヤクザだろうとマフィアだろうともっと強欲なもんさ。これは意図的だねぇ……要するに撒き餌さ。いずれそれに紛れ込ませて、本命の危ない橋を渡らせようって魂胆だろうと疑っていたが……これがそうかねぇ?」

 美紫メイズは首を傾げる。


「ウチを嵌めようと? そんな命知らずとも思えませんが……」

「どちらにしろ用心にこしたことはないねぇ……そのヤクザ者はチンピラのわりには食えない男だ。だがまあ、この仕事は引き受けておやり。この坊やの初めてのお使いかもしれないからねぇ……ふふっ。その代わり何があっても外から匂いを嗅ぐだけにしな。一切、壺の中に手を入れるんじゃないよ」

「承知しました。人には任せず今回は私が直接、探ってみます。しかしどうしてこの少年をそれほど気になさるのですか?」

「なんでかねぇ。初めて見たときは目が気になった。だけどね、二回目に会った時、おまえ達でさえ知らない私の名をこの子が言い当てたのは果たして偶然かね? クックッ、まあいずれわかるさ。波寧ポーニンをそのまま張りつけときな。それよりも窟を移動するよ。今朝も小火があった。何回目かね? 物騒なことにならないといいがねぇ」



 なんとなく雰囲気で話が纏まったことを悟り、ほっと胸をなで下ろす。

 美紫メイズの前で跪き、神に祈るように手を組む。何事も演出が必要だ。

 俺は手首に巻いたアクセサリーをそっと片目で覗き込む。



 爆竹と同じく中華街名物の風水磁石が、その役目を見失いクルクルと回っている。














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