道中、中華街名物の爆竹が破裂するような突然の雷雨に襲われた。今や日常になりつつある異常気象にはうんざりするが、運良く、目的の場所にはたどり着いていた。庇から垂れる雨粒は如何にも冷たそうだけれど、秘密の話をするならその方がいい。
「今回は隠し口座でも借金抱えた人間の消息でもないようだね。随分と毛色の違う話じゃないか。どういうことだろうね?
「さあ、わかりかねますが……」
「そのなんとか言うヤクザ者の情報は確かなのかい」
「本名、鎌倉英二。通称、鉄玉。広域暴力団の三次団体の構成員です。新宿を拠点にして事務所を構えています。ご存じのように新宿はごった煮の群雄割拠です。最近、勢いがあるとは言われていますが、それほど目立った存在でもありません」
「ホウヮ? じゃあ本当にこの子が調べてるってのかい?」
「どうでしょう。鉄玉は経済ヤクザではありませんが、なにか新しい金儲けの手段を見つけて彼に依頼しているだけかもしれません」
今日は珍しく
薄暗い。時として雷光がフラッシュを焚くようにふたりを明るく照らす。
見た目は老いてしょぼくれたキツネと丸っこく太り煤けたタヌキの組み合わせ。
だが違う。本質を知れば、自分に口を挟む余地はない。畏怖への言い訳。
自分が融通するのは、自分がなにも持っていないからだ。言葉は飾りに過ぎない。言葉が通じないことは本質的なことじゃない。雷鳴と雨音の隔絶した空間だからこそそれがよくわかる。自分など本来、関わってはいけない種類の人間で、それは鉄玉にも同じことが言えるだろう。
…………なのに不思議だ。不思議な高揚感がある。抑揚のない顔をしながら怯えた目をしながら、心の中でキャハっと笑い出しそうな自分がいる。
「依頼内容はいつも的確で報酬も高水準です。今までのトータルの金額も馬鹿になりません。受けて良いのではないでしょうか。特に今回は現金でもありますし……」
「
「ウチを嵌めようと? そんな命知らずとも思えませんが……」
「どちらにしろ用心にこしたことはないねぇ……そのヤクザ者はチンピラのわりには食えない男だ。だがまあ、この仕事は引き受けておやり。この坊やの初めてのお使いかもしれないからねぇ……ふふっ。その代わり何があっても外から匂いを嗅ぐだけにしな。一切、壺の中に手を入れるんじゃないよ」
「承知しました。人には任せず今回は私が直接、探ってみます。しかしどうしてこの少年をそれほど気になさるのですか?」
「なんでかねぇ。初めて見たときは目が気になった。だけどね、二回目に会った時、おまえ達でさえ知らない私の名をこの子が言い当てたのは果たして偶然かね? クックッ、まあいずれわかるさ。
なんとなく雰囲気で話が纏まったことを悟り、ほっと胸をなで下ろす。
俺は手首に巻いたアクセサリーをそっと片目で覗き込む。
爆竹と同じく中華街名物の風水磁石が、その役目を見失いクルクルと回っている。