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第22話 小火(ぼや)の朝に。

 死と生の境界を浮遊し、ひらひらと舞う蝶化身チョウケシン。それは深くて浅い眠りだった。

 ハンモックのリズミカルな揺れが、脳に干渉しているのか?

 そもそも寝ている状態で、ハンモックは揺れるものなのか? 


 俺の異変。花の蜜を探るよに近頃やたら酒に手を伸ばす。嫌いだったはずなのに、まるで自分の中の未知なる誰かが、それを求めているかのように。


 胡蝶の夢。蝶になった夢をみたのか、それともこの現実は蝶が見ている夢なのか。





「スネークアイ・バンクにようこそ」

「うわっ!」

 俺はロープを軸にくるっと回転して盛大に床にすべり落ちた。ドスンっ。


「イテテ……なんっすかいきなり。それでなくても迫力あんのに」

「すまない。用事があったんでついでにお得意先回りだ」

「……バラックの中に入ってくるなんて珍しいっすね」

「明け方、ぼや騒ぎがあってな。ここの連中も消火を手伝ってくれたんだが火傷した人間がいたので様子を見に来た」

「火事っ? 物騒っすね。熟睡しててまったく気づかなかった」

「ゴミ捨て場が焦げた程度だ。火傷した人間は一応先生に見てもらっている」

 灰色の室内には他に誰もいない。鼻をヒクヒクとさせると微かに焦げ臭い。


「あ、でも丁度よかった」

「どうした? また預け入れか?」

「今日は引き出しです」

「ほう。しかし私が言うのもなんだが、預けるときに一割抜かれ引き出すときに一割抜いて渡す銀行を利用する気持ちがわからない」

「盗まれてゼロになるよりもましですよ」


 スネークアイに預けていた金を引き出した。お金って匂いするの? どこからともなくジャンさんが近づいてくる。チラッと札束を見せると喉を鳴らしてついてきたが、俺の歩いて行く方向が窟だとわかると足取りが鈍りまるで縄張りの中から出られない猫のように途中でついてくるのをやめた。


 凜とした空気が石畳の道をくっきりと浮かび上がらせる。やたらと赤や黄色が多い中華街の看板も冬の朝はそれほど鬱陶しいと思わない。考えれば12時間以上も寝ていたのだろうか? 頭はやけに冴えている。




 同じ穴に2匹の異種の獣はいないはず。昨夜のマリアから聞いた話で、何のことはない、あいつらは同じ建物内を移動していただけなのだ。あの鏡面のビルの中核で、スパコンをいじってるのが俺を嵌めた連中だろう。だがどうやら危ない集団には違いない。慎重に……


 俺は暗闇を作るのに人の半分しか労力を使わない。片目をつぶれば、真っ暗だ。


 その暗闇の中で、あのときの状況を再現する。

 歌詞でサビを繰り返すようにリフレインする。



 あの弁護士を名乗った人物は人に使われるタイプの人間ではない。そう見える。

 なぜかわからないが、それだけは確信が持てる。あの男が首謀者でなんらかの組織の頭であることは間違いがない。大事おおごとにする必要もない。あの男だけを締め上げ、俺になにをしたのかを吐かせるだけでいい。


 ここ最近の商売で窟の情報の相場はわかっている。簡単な仕事だ。今、持っているのでお釣りが来るだろう。そして中華街で石を投げれば占い師と絵描きに当たる。

 似顔絵を用意した。お世辞抜きに本人と瓜二つだ。


 慎重に……大事にする必要はない。窟に探らせる。あの男を見つけ出す。

 荒っぽい仕事とすれば、人一人さらうだけ。それは鉄玉に頼むしかない。

 鉄玉は約束を守る。俺にはそう見える。俺は力を、融通するだけでいい。















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