あんかけチャーハンの腹ごなしに、
考えると足がすくむじゃない? 無論、
「ヒロユキ殺す!」
「なんだい?
ディフェンダーをかわしパスを繋ぎながら、なんだか楽しくなってきた。窟なんて都市伝説だ。チャイナタウンの裏側を仕切るのはあくまでマフィアで……だったら、窟の連中はどうやって食ってる? 財源なき政策は絵に描いた餅。多分そんなものに実態はない。清き一票はいらないが、考え方としては褒められていい。
パチンッ! 突然、空気がはじける。横からなにか黒い影が飛び出してきた。
「うわっ!」
激突するはずだった。だが不思議なことが起こった。影は猫のようにしなやかに、肌をなでるように、俺と
それは浅黒く小柄な男だった。だけど、服の上からもその中にゴムのような筋肉が密集しているのを感じる……いやなぜか俺にはそう見えたのだった。日本人の雰囲気じゃない。かといってなじみのチャイニーズともちょっと……感じが違う。
男はちらっと俺たちをにらみ、それから何事もなかったかのように向かいの路地に消えていった。
「なんなんだあれ?」
「
「
酔いは泡のように覚めた。でもそこはすでに窟の目と鼻の先だった。
もう少し歩いて角を曲がれば、紫の髪が見えてくる……はず。
「ん?
「ヒロユキ~さっきはまいどあり~」
そこにはバラックのマスコットキャラクターがいた。ちっちゃくて可愛い。
あれ? さっき俺たちが食ったチャーハンの皿を片付けてなかったっけ???
「じゃあ、マーちゃんまたねぇ。ヒロユキも
ポカンとしている俺たちの横をニコニコしながら立ち去っていく。帰り際手を振るその先、
まだ酔っているのかもしれない。やはりそこは窟だった。
「ホウヮ?
紫の婆も手を振っている。なんてことはない老婆たちの井戸端会議。牧歌的な光景だ。やはり窟なんてものはただの幻想。だとしても……
……だとしても、俺はここで話を付けなくちゃならない。金が欲しかったわけじゃない。俺には……なんの力もない。数学が得意な奴から数学のノートを借りて数学が苦手な奴に渡す。引き替えに国語のノートを借りて国語が苦手な奴に渡す……それを繰り返し、自らのノートを提出せずに、尚且つ、全員に得をさせなければならない。
あのカツアゲを仕掛けたのは鉄玉だった。少なくとも、あいつは窟の存在を信じている。信じているからこそあんな手の込んだことまでして俺に近づき、大金と連絡用のスマホまで提供したのだ。
金は返せない。その日暮らしの俺にはすでに返せない金額になっている。もはや、後戻りは出来ない。そしてそれは売春宿の玄関口で、ヤン・クイを目の前に格好つけたときから決断していたことだった。なにも持たない俺は、誰かを利用する。呪いをかけた人間を探しだして、その呪縛を解くために利用する。それがヤクザだろうと、オカルトだろうと、それ以外の道を神様は提示していない。
「片目を潰したのかい? 男前だよ。もう一つ潰せば、もっと楽になる」
紫に髪を染めた老婆はそう微笑んだ。