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エピローグ①

 視線が、痛い!


 わかってはいたけれど、覚悟は決めていたつもりだけれど……やっぱりたくさんの注目を集めるのは居心地が悪かった。



「なぁモモ、やっぱり今からでもウィッグつければ?」



 一緒に登校中の陽が不機嫌そうに提案する。


 でも、それは無理な話だった。



「ううん、もう自分を偽らないって決めたから」



 元々、このままでいいのかな? って思いはあった。


 髪色のせいで攫われかけたり、周囲を巻き込んだりしないようにってずっと隠してた。


 でも、ずっと自分を偽って過ごしていくのも無理があるってこともわかってたから……。


 だから、SudRosaの人たちにも素の自分を晒したことだし、これをきっかけにウィッグをつけるのを止めようって決めたの。



「それに、後戻り出来ないようにウィッグ家に置いてきちゃったし」


「チッ、マジかよ」



 陽は私がウィッグしないで学校に行くことを反対しているせいか機嫌が悪い。


 私に男が群がるとか言ってたけど、そうなったとしても髪色が珍しいからってだけじゃないかな?


 そんなに心配する必要はないと思うんだけど……。


 とはいえ物珍しさから注目は集める。


 それは学校に近づくにつれて多くなった。



「え? あんな子同じ学校にいたっけ?」


「染めたとか? でもそれにしてはちょっと違う感じもするし……」



 不思議そうだった周囲の声は、教室に近づくと驚きの声になる。



「ねえ、隣歩いてるの陽くんだよね?」


「う、うん。……てことはまさかあの子って」



 ザワザワと、私が誰なのか気づかれ初める。


 うぅ……教室入るの勇気いるなぁ……。



「モモ、俺一緒に行こうか?」



 私の弱気を感じ取ってか、陽が心配そうに聞いてくる。



「だ、大丈夫……でも、カバン置いたらすぐ来てくれると助かるかも」


「わかった」



 いくら何でもずっと付き添ってもらうのは情けなくて。


 でも、正直どんな反応をされるのかわからないからちょっと怖い。


 今のところ悪い感情は持たれてない気がするけど、なんで今まで隠してたのかって非難するように聞かれるかもしれないし……。


 だからいつもと同じように陽に来てもらえれば安心かなと思ってお願いした。



「じゃ、すぐ行くから」


「うん」



 陽が隣の教室に向かうのと同時に深呼吸をする。


 そして覚悟を決めて一気にドアを開けた。



 ガラッ



 開けたからってすぐに注目が集まるわけじゃない。みんなそれぞれ仲間内で会話してるから。


 でも、席に着く頃には教室内全員の注目を浴びちゃってた。



「え⁉ 藤沼さん!?」


「髪どうしたの!?」



 近くの女子が真っ先に驚きの声を上げた。



「ボブからロングなってるし、染めたわけじゃないよね?」


「でもウィッグにしてはムラがあるし……え? まさか地毛なの!?」



 詰め寄られてたじろぐけれど、予想の範囲内だったから私は問題なく答える。



「うん、実はちょっと事情があって今までこの髪隠してたんだ」


「えー!? 事情って何?」


「っていうかさ今まで顔もあまり見えないようにしてたんじゃない? なんか、かわいいんだけど」



 じーっと見られてどう対応して良いかわからない。


 流石に自分のことをブサイクだとまでは思っていないけれど、でもこんなにまじまじと見られた上でかわいいなんて言われるのは想定外だよ!



「え? ぅわ、マジだ。メチャクチャかわいくないか!?」


「ストロベリーブロンドの美少女……マジか、こんな子とクラスメートだったなんて」



 女子のかわいい発言が発端になって近くの男子も寄ってきた。


 しかも、なんかどんどん増えてくんだけど!?



「な、なあ。今日の放課後にでも一緒に遊びに行かねぇ?」


「おまっ! 抜け駆けすんなよ!?」


「え? ええ!?」



 ちょっと待って!


 これは本当に想定外!


 は、陽ー! 早く来てー!



「はいはい、男は近づくなよー?」



 私の思いが届いたのか、タイミング良く陽が来てくれた。


 まだこの間のケガは完治していないのに、平然と男子たちをかき分けて私のところに来る。


 座っている私の後ろから腕を回して、しっかりと肩を抱かれた。



「は、陽?」



 来てくれたのは嬉しいんだけど、いきなり近くない?


 陽の体温を感じてドキドキ鼓動が早まる中、ポツリと低い声が耳に直接聞こえた。



「だから言わんこっちゃない……」


「え?」



 聞き返すけれど、答えは無く耳の縁にチュッとキスをされる。



「っ!?」



 わざとらしいリップ音に驚いていると、陽は周囲にいる同級生に低い声のまま宣言した。



「萌々香は俺の彼女だから。手ぇ出したら許さねぇよ?」


「っ!?」



 私からは陽の顔は見えないけれど、声の雰囲気と周囲が怖がっている様子を見れば陽がみんなを威圧していることくらいわかった。


 正体を知らなくても、SudRosaの総長の睨みには殺気でも込められているのか一般生徒が立ちうち出来るはずもなく……男子たちは「そう、なのか……」と散っていった。


 女子もたじろぎつつ、「前からべったりだったもんねー」と納得して戻っていく。



「ちょっと陽? どうしてバラしちゃったの?」



 陽の腕を緩めて振り返り、その顔を見て非難する。


 一応つき合っているのは秘密のはずなのに……。


 まあ、秘密の割には元々距離感がおかしかったけれど。


 非難しつつも今更なのかもしれないなんて思う私に、陽は“んべっ”と舌を出して悪びれなく言う。



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