「えっと……こっちの方に来たってことは、陽の“やること”関連につき合って欲しいってことかな?」
陽と話がしたいと思っていた私は、彼の誘いを二つ返事で受け入れた。
ただ、それで向かった場所は南香街の立ち入り禁止区域で……。
「ああ……。最近な、こないだモモを襲った不良連中がどうやってNを手に入れたか調べてたんだ」
危ないからって手を引かれながら、私は陽の説明を聞く。
人気のない街を二人並んで進み、前回来たホテルの前も通り過ぎた。
「ある程度目星はつけてたんだけどさ、久斗が今日SudRosaのメンバーから貰ったらしいって情報くれただろ? あれでハッキリした」
「えっと、Nをあの不良達に渡してた人が分かったってこと?」
明確な言葉がなかったから聞き返したら、陽は「ああ」と頷く。
「SudRosaの下っ端の一部だったみたいだ。だから今日はそいつらシメるためにメンバー招集したんだ」
口調はいつもの明るい陽だけれど、目は昏くて少し怒っているようにも見えた。
思わず緊張してつばを飲み込むと、陽はパッと明るい笑顔を見せてとんでもないことを言う。
「で、せっかくメンバー招集したから、ついでにモモのお披露目しようかなと思ってさ」
「は? お披露目?」
お披露目って……なに?
「こないだみたいにモモが危険な目に遭わないよう、みんなに俺の彼女だってショーカイすんの」
軽い調子で説明してくれるけれど、なんでSudRosaとかいう正体不明のチームに私が紹介されなきゃいけないの?
陽の話を聞いていればSudRosaがNを管理してるらしいってことは分かる。
その時点で危険なニオイがプンプンしてる。
陽がSudRosaのメンバーなのはなんとなく分かるけれど、どうして彼女だからって紹介されることになるの?
私が危険な目に遭わないようにって言ってるけど、紹介されて関わった方が危険なんじゃないの?
ぐるぐると疑問ばかりが頭の中を巡って、答えが出ない。
疑問を解消したいけどどれから聞けば良いのか……。
とりあえず。
「えっと、まずさ。陽はSudRosaの何なの?」
今一番問題なのは、陽の彼女だからって理由だけで紹介されるってこと。
その意味が知りたくて恐る恐る聞いてみた。
「何って、総長だけど?」
「え?」
「あれ? 言ってなかったっけ? 俺、SudRosaの総長やってんだけど」
「聞いてない……」
キョトン、とかわいく首を傾げる陽を見ながら、私は気を失いたくなる心地でいた。
***
こっ、こわいぃ!
南香街の禁止区域の奥、何かの研究施設っぽい大きな建物のホールにコワモテな男の人たちがたくさん並んでいた。
その間を通りぬけて一段高く設置されている壇上に向かうとか、恐怖以外の何物でも無い。
なのに、私の手を引いている陽はチラリと私を見て楽しそうに笑う。
「怖がっちゃって、かわい」
「なっ!?」
怖がらせてゴメンとかじゃなくて、かわいいって……陽の意地悪!
私はちょっと涙目になりながらも、今日の夕飯では陽の苦手なピーマンをてんこ盛りにしてやろうと決意した。
怒りのせいか、少し気が紛れたおかげで何とか壇上に上った私と陽。
先に壇上に立っていた銀髪で三白眼の大人っぽい男の人からの視線が痛い。
他の人たちからもだけれど、『なんなんだコイツ』って声が聞こえてくるようだった。
そんな視線に気づいてかいないでか、陽は私の肩を抱きみんなに宣言する。
「コイツは萌々香、俺の女だ。丁重に扱えよ?」
途端にザワリとホール内が沸く。
聞こえてくる声はあまり良いとは思えないものばかりだ。
「マジで? 嘘だろ?」
「総長かなりのイケメンなのに、なんであんな芋くさい女を!?」
……まあ、今の私はウィッグつけてるし、地味な格好してるから地味とかブスって言われるのはわかるよ?
でもさ、芋くさいってなに⁉ 田舎くさいってこと⁉ 私、生まれも育ちもみすず市なんですけど⁉
いくらなんでもって言葉の数々はちょっと聞き捨てならない。
とはいえ、コワモテの男達に怒鳴る勇気は流石になかった。
「どうとでも言え。モモのかわいさは俺だけが知ってれば良いんだよ!」
ざわめく男たちを黙らせるように声を大きく上げた陽は、そのまま私の頭にチュッとキスをする。
「っ!」
これくらいのことは前から学校でもしていたけれど、やっぱり大勢の前でされるとすっごく恥ずかしい。
カァッと顔に熱が集まる私は、何か叫び出したい衝動を唇を引き結んで耐えた。
「マジか……」
「あんなのに骨抜きなのか……」
またしても信じられないって感じの声が上がる。
でも今度は騒がしくなるよりもシーンと静かになっていった。
逆にどういう意味よ? と突っ込みたい気分で私はジトッと男達を見下ろした。
「とまあ、モモのお披露目もしたし。……本題に入ろうか?」
静かになったところを見計らうように、陽が明るい声をガラリと変える。
明らかに低くなった声に陽を見上げると、冷徹とも言える鋭い目で昏い笑みを浮かべているのが見えた。
シーンとしていただけの空間が、耳が痛いほどの静けさになる。
ピリリと痛みをともなうような、緊張感を覚えた。