「モモ、かわい……ホント、あんな奴らに奪われる前で良かった」
チュッと、まだ残っていた涙を吸う様に私の目尻にキスを落とした陽は、そのまま妖しい笑みを浮かべ呟く。
「モモは俺のにするって決めてたから」
「え……?」
どういうこと? という問いは口から出る前に溶けてゆく。
本格的に何も考えられなくなって、ただ陽の腕に身を任せた。
エレベーターを降りて、陽はどこかの部屋に入る。
ふかふかな場所に下ろされたのが分かって伏せていた瞼を上げると、そこは今まで横になったことがないような大きなベッドだった。
私を下ろした陽は、すぐにジャケットを脱いでシャツのそでのボタンを外している。
ネクタイも取り外し、首元を緩めた陽はどこか大人っぽい色気が出ていた。
ドキドキと、熱のせいだけじゃない理由で鼓動が早くなる。
金の髪を揺らし、ベッドに手をつくと緩んだ首元から男らしいたくましさを思わせる鎖骨が見えた。
金糸の向こうから覗く黒は欲の炎に染まっていて、怖いと思うけれど嫌だとは思わない。
何をされるのかなんて流石に分かる。
でも、陽ならいいかなって思ったから……。
「モモ……」
チュッと頬にキスを落とした陽は、私に優しく語りかける。
身を任せるように軽く目をつむると、思ってもいなかった言葉が降りてきた。
「安心しろ、最後まではしねぇから」
「……え?」
「Nの媚薬香は強力だからな、こうするのが一番手っ取り早いんだ。でも最後までする必要はねぇから」
声と同じく優しく私のシャツのボタンを外した陽は、露わになった鎖骨部分を指でなぞりながら「それに」と不敵な笑みを浮かべる。
「
「え? あっ!」
鎖骨を撫でていた指が、今度は手のひら全体を使って首筋を撫で上げる。
ゾクゾクと何かが駆け上がっていく感覚に震えているうちに、陽の顔が耳元に寄せられた。
「ホントかわいい……それに、モモからは甘い匂いがするんだ……ほら、こうするともっと甘くなる」
耳に直接、陽の柔らかくも低い声が届く。
同時に男らしい硬い手が私の脇腹から下へと流れていく。
「やっ、だめ……」
私の中にある熱が更に暴れ回るような感覚になって、思わず拒否の声を上げてしまった。
でも、そんな私の言葉になんか惑わされずに陽はもっと手を動かしていく。
「はぁ……ホント、良い匂い……」
私の首筋に顔を埋めて匂いを嗅ぐ陽。
恥ずかしい。
でも、暴れる熱はそんな恥じらいも溶かして蒸発させてしまっているかのよう。
どんどん熱くなる体をなんとかして欲しくて、私はもう何も考えず陽にすがった。
「陽っ……はるぅ」
「もっと嗅がせろよ。そうすれば、きっと……」
何かを言いかけた陽の声は、完全に熱に浮かされ始めた私の耳には届かなかった。
ただ、名前を呼ぶ声だけが耳に届く。
「モモ……萌々香」
「んっ……はるぅ……」
私の名前をちゃんと呼ぶ陽に、また熱のせいとは違う理由でドクリと鼓動が鳴る。
頬に、目尻に、耳たぶに。
そして首筋にキスを落としてくれる陽。
どんな理由であっても私を求めてくれているのだと分かって、どうしてか嬉しいという感情が沸く。
だから私は、陽のむせかえるような薔薇の香りに身を任せた。