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かわいいイケメン義弟⑥

 自分の部屋に入ると内鍵を掛けてふぅ、とため息を吐く。


 陽はかわいいけれど、気を抜くと抱きついてきたり匂いを嗅いだりしてくるから自分の部屋が結局のところ一番落ち着く。



 鞄を机の近くに置くと、アロマ置き場になっている鏡台の前に座ってジャスミンとオレンジをブレンドしたアロマオイルを手に取った。


 そしてすぐそばのベッドサイドに置いてあるアロマディフューザーにセットして電源を入れる。


 そのまま少し待っていると、ふわりと甘く爽やかなオレンジの香りが広がった。


 次いでジャスミンの甘いフローラルな香りがほどよく混ざり合う。


 オレンジは不安や緊張感を緩和、ジャスミンは気持ちを落ち着けてくれる。


 ストレス解消とか、気持ちを落ち着けたいとき用に調香した香りだ。



 香りに浸るように軽く目を伏せて、さっきから翻弄されっぱなしだった心を静めていく。


 陽と一緒に暮らすようになってから、この香りをよく使うようになった気がする。


 ……だって、陽ってば毎日私がドキドキするようなことしてくるんだもん。


 抱きついて匂いを嗅ぐのもそうだし、さっきみたいにかわいい顔で何かをねだって来たり。


 嫌ではないけど、落ち着けない。



 甘く爽やかな香りをいっぱいに吸い込んで、ふぅーと吐く。


 今度こそ落ち着けたと目を開けると、丁度鏡台の鏡が目に入った。



「ん? あれ?」



 ボブカットの黒髪の間から、桃色が少し見える。


 うわ、直さなきゃ。



「陽にはバレてないよね? ちょっとだし」



 呟きながら付けていたヘアピンを取り“黒髪のウィッグ”も取った。


 まとめていたものを全部取ると、長い桃色の髪がサラッと腰まで落ちる。


 珍しい桃色の髪。ストロベリーブロンドっていうんだって。


 私を捨てたお母さんが、この髪の色から名前を決めたって言ってたっけ。


 お母さんは嫌いだけれど、名前は気に入ってるから良いセンスしてるとは思う。



 とはいえ、この髪色のせいで昔人さらいに遭いかけた。


 たまたま近くにいた大人が気づいたおかげで大事にはならなかったけれど……。


 そのとき多くの大人から言われた『珍しい髪色だから狙われやすいんだろう』って言葉がずっと心に残ってる。


 だから私はこの髪を隠して地味でいることを選んだんだ。



 お義母さんや陽は家族だから、いつかはちゃんと話した方がいいかなって思うんだけど……。


 でも、心から信頼出来るかってなるとまだちょっと微妙だから、もう少しだけ様子見したい。


 そういうわけで、ちゃんと話せるまでは家でも隠し通すことにしてるんだ。


 お父さんは私の意思を尊重するって言ってたし。



「でもウィッグつけるにはもう少し髪の量は抑えたいんだよね。でも美容室行ったらバレちゃうし……」



 下手くそでも自分で切るべきか。と、鏡を見ながら私はしばらく考えていた。

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