徐々に騒がしくなっていく教室の様子を気にも留めず、私はカバーを付けた本のページをめくった。
顔を隠すように長めにしている前髪が少し邪魔で、指先でちょっと寄せる。
「おい
すると、隣のクラスのサッカー部員の声が廊下から聞こえてきた。
いくらサッカー部でも高校二年にもなって朝から友達を誘って遊ぶとか、元気だなって思う。
でも、そんなサッカー部男子の声よりも呼ばれた名前の方につい反応してしまった。
チラッと廊下の方を見てみると、開けられたままのドアから金色の髪が見える。
「いーけどさ、お前朝から元気すぎ」
友だちに対して苦笑いを浮かべている顔が、私の視線に気づいたのかフイッとこっちを向く。
とたんに外の太陽よりも明るい笑顔が向けられドキッと私の心臓が跳ねた。
パッチリとした二重の黒目が嬉しそうに細められて、形のいい唇の両端が上がる。少しだけ開いた口からは白い歯が見えていた。
そんな爽やかでかわいいイケメンスマイルを向けてきた彼は、そのまま私にひらひらと手を振る。
明らかに人気者オーラをまき散らしている相手に手を振られて、私はぎこちなく振り返した。
「おい、何やってんだよ。行くぞー」
「はいはいっと」
もう一度呼ばれた彼、
「……早くも人気者だな」
お日様みたいな陽がいなくなって、私はポツリと呟く。
藤沼陽。彼はこの春隣のクラスに編入してきた同級生の男子だ。
……そして私、藤沼
初めて陽に会ったのは去年の終わりころ。
お父さんと再婚するお義母さんの連れ子ってことで、みんなで顔合わせをしたときだった。
あのときはお互い同級生の義理の姉弟なんて、って感じで今みたいな笑顔を向けてきたりはしなかったんだけど……。
一緒に暮らし始めて少ししてからかな?
『モモっていい匂いするんだな?』
なんて言われてから今みたいにとっても懐くようになっちゃったんだよね。
いつのまにかモモなんて愛称で呼ばれてたし、いきなりすぎて私の方が戸惑ってる。
……まあ、かわいいし、カッコイイし……嫌ではないんだけど。
ただ、あまり目立ちたくはないから学校では必要以上に構ってこないでほしいかな。
ふぅ、とため息をついて視線を本に戻す。
細かな文章の中に描かれたイラストはピンク色の
イラストの下には薔薇の香りの効能がつらつらと書かれている。
アロマエッセンシャルオイルの本をパラパラと見ながら、私は趣味でもある
……薔薇は一番好きだけれど、もう少ししたら夏だしメントール成分のあるペパーミントがいいかな?
アロマだけじゃなくて夏用の香水も欲しいよね。
まずは柑橘系をミドルノートにして……。
そんな風に集中し始めたとき、「おはよう、萌々香」と近くから声が聞こえてきた。