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惑わし総長の甘美な香りに溺れて
緋村燐
恋愛夜の世界
2024年10月12日
公開日
78,197文字
完結
「あーあ、見られちゃった」

かわいい顔をした
バラの香りがする義弟は

「でもいっか。こっちの俺を知られたんなら、もう抑える必要ないしな」

返り血を浴びながら、キレイな笑みを浮かべていた……。

。.*::*.。 。.*::*.。 。.*::*.。


規制のある街・南香街。

禁止区域にたたずむ陽。

人を意のままに操る香り・通称N。


関わってはいけないそれらに
手を出してしまった萌々香は――


「モモからは、甘い匂いがするんだ……ほら、こうするともっと甘くなる」

「やっ、だめ……」

「もっと嗅がせろよ。そうすれば、きっと……」


花の香りに溺れるように

捕らわれた。


ーー陽、本当のあなたは
どんな人なの?

プロローグ

 とても。


 とても強い薔薇の香りがした。



 月明りの下。


 真逆の太陽みたいな髪色を夜風に遊ばせて、彼は私を見る。


 昼間はその名前の通り明るい表情をしているかわいい顔は、同じ笑顔ものだというのにくらく淀んでいる。



「……はる?」



 まるで別人としか思えなくて……否定してもらいたくて、名前を呼んだ。


 けれど……。



「あーあ、見られちゃった」



 笑顔の質は違うのに、彼はいつもと同じく無邪気に話しながら私に近づいて来る。



「でもいっか。こっちの俺を知られたんなら、もう抑える必要ないしな」



 白い頬に散った返り血は血桜の花吹雪のようにすら見え私の心を騒がせる。


 欠けた月を背後に私を見下ろす陽は、恐ろしいほど美しい高雅こうがの笑みを浮かべていた。



 陽、今のあなたが本当の姿なの?


 普段のあなたは偽りなの?


 瞠目どうもくする私は声にならない問いかけと共に焼けつくような思いを胸に宿す。


 むせかえるような薔薇の香りが私を惑わしているとしか思えない。


 だって、恐怖しか感じないはずの陽の笑みに――どうしようもなく惹かれるのだから。

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