ボロボロの新聞を洲本に渡すと見ていられないくらい喜ばれた。
「よくやった! これでもう俺を阻むものはなにもない! いやあ素晴らしい! どうかな? ロケが終わったら打ち上げがあるんだけど来ないかい? もちろんあのお友達も」
「……いえ。生憎ですがもうすぐテストがあるんで」嘘だが。
「そうか。それは大変だ。まあいい。いやあ、本当に助かったよ!」
「たしか明日にはここを出るはずでしたね。それまでに解決できてよかったです」
「え? ああ……まあ、うん。そうだね。本音を言えばこの町を気に入ってね。もう少しいるつもりなんだ。これで心置きなく観光できるよ。ありがとう! 名探偵!」
ボクが最後に生で見た洲本久遠は満面の笑みを浮かべていた。
そしておそらくこれが彼にとって人生で最後の喜びだったのかもしれない。
なぜならその一ヶ月後、洲本は週刊誌にスクープされて、芸能界を干されることになるからだ。
無論ボロボロの新聞とは関係ない。だが女子高生をホテルの部屋に連れ込み、飲酒を勧めた挙げ句、一夜を共にしたのだから弁論の余地はないだろう。
予定されていた全てのドラマや映画はお蔵入りになり、CMは止められ、莫大な違約金を払うことなった洲本は婚約者からも別れを告げられ、今はどこにいるかさえも分からないらしい。
どちらにせよ、人気俳優だった洲本久遠はあっけなく破滅した。