跡羅の家に着くとボクは庭に異変がないか確認した。しかし変化は確認できない。
家の中に入った印象は非常に生活感に溢れているだった。正直綺麗だとは言えない。
まだ荷ほどきが済んでないのか、それともこのまま行くつもりなのか段ボールがいくつかあった。キッチンにはペットボトルやお菓子の袋が、奥の自室には漫画や学校で使う参考書などが乱雑しており、ここから目星のものを見つけるのはかなり難しそうだ。
空き巣に入った男も物が多く、移動させたら元に戻さないと怪しまれるので探すのが大変だったと言っていた。
跡羅は頭の後ろを掻いた。
「散らかってるけど勘弁しろよ。こっちはほとんど一人暮らしなんだから。あいつも色々まいってて掃除どころじゃないしな」
「……問題ない」
「それとだ。オレは確かに言ったぜ。新聞を見つけるのはお前だとな」
「どういう意味だ?」
「この執事は使わせないって意味だ」跡羅は和藤を見上げた。「どうにもこいつはヤバそうなんでな。動き回ったり特定の場所を示唆したりすることを禁じさせてもらう」
ボクは思わず口ごもった。同時に心のどこかで和藤を頼りにしている自分を恥じた。
「む、無論そのつもりだ。探偵はこのボクなんだからな」
「だとよ。ミスターホームズ」
跡羅はニヤリと笑って和藤を見上げた。それに和藤は余裕を持って微笑み返す。
「勘違いなさっているのはあなたです。ほむら様こそがホームズなのですから。私のような助手に出る幕などありません」
跡羅は焦らない和藤にムッとした。だがすぐに不敵な笑みを浮かべる。
「まあいい。十分経てばなにが本当か分かる。もしほむ太郎が外したらあんたのネクタイを好きなだけ引っ張らせてもらうからな」
「ご自由にどうぞ」
跡羅はキッチンに行ってタイマーを取ってきた。それに十分と表示してボクに見せる。
「じゃあ始めるぜ。希望の未来へレディー・ゴーッ!!」
跡羅がタイマーをスタートさせると共にボクはすばやく歩き出した。
ボロボロの新聞が防空壕の中にある可能性は限りなく高い。だがその裏をかいて部屋のどこかに戻しているかもしれない。今はまずありそうな場所から確認していこう。
ボクはそう考え、まずはタンスや押し入れ、冷蔵庫の中や鏡台など空き巣が必ずチェックすると言われる場所を確認していく。洗面所や服のポケットまで調べたが、やはりボロボロの新聞は見つからない。あったのはベッドの下に置かれたエッチな本だけだ。思わず顔が熱くなる。
「あと五分」
無情にも時間は過ぎていく。もうあと五分しかない。焦るボクに和藤は静かに告げた。
「ほむら様。落ち着いてください。冷静に推理するところから始めましょう」和藤は跡羅を見下ろし、「これくらいは問題ないはずです」と言った。
「まあ応援くらいは許してやるよ。ほら。とっとと走れよほむ太郎」
跡羅は余裕綽々だ。どうやら根本的に間違えているらしい。
ボクは足を止めて大きく息を吐いた。
考えろ。論理を積み立て、可能性を排除していけ。その先にきっと真実がある。
「まず始めに」ボクは考えを声に出した。「ボロボロの新聞が防空壕ないし地下室にあることは間違いない」
跡羅は意外そうにしながらもニヤニヤと笑った。
「それはどうかな」
「いや。確実だ。君はボクが放火されると言った時、気にしなかった。それはつまり家が燃えてもボロボロの新聞は無事だと分かっているからだ。洲本の性格を知っているなら危害を加えられる可能性があるのに知り合いに持たせることはない。なら新聞はこの家にあるはず。その上火災から逃れることができる場所となればもう地下しかない」
ボクは足下を見つめた。跡羅は面倒そうに頷いた。
「で?」
「普段君はアルバイトで家を空けている。その間、家を守る者は誰もいない。いくらこの家が外から丸見えだからといえ、人通りの少ないこの地域では完全な防犯とは到底言えないはずだ。だが君は安心して家から離れている。なぜか?」
「カネがないからだよ。だからバイトしてる。金持ちには分からないだろうけどな」
「それもあるだろう。だが報告書にはアルバイトのない日も遊びに出かけている。これは完全に見つけられないと思っていないとできない。だが通常の空き巣は十分ほどで出て行くが、リスクを負えばそれ以上の時間を費やす可能性だってある。どれだけ巧妙に隠しても家中をひっくり返されれば必ず見つかるはずだ。君ならそんなことは百も承知だろう。だとしても安心できる理由があったんだ」
「つまり?」
「ボロボロの新聞は在処が分かっても取り出せないようになっている」