更に翌日。
放課後に屋上でベンチに座っていると入り口のドアが静かに開いた。
そこから疲れた顔の跡羅が出てくる。ボクを見つけると跡羅は嘆息した。
「やれやれってやつだ。本当にね」
跡羅はそう言うとボクの隣にドサリと座り、肩に手を回してまた溜息をついた。
「やられたよ。いや、まいったと言った方が良い。あの執事、四六時中オレをつけてきやがる。いくら巻いても気付けば後ろにいるんだ。気味が悪いにも程がある」
「君のためでもある」
「オレの?」
「ああ。今日中にあれを見つけられなかったら洲本は君の家を放火するつもりだ」
「マジ? よかったあ。そうかと思って火災保険に入っておいたんだよ。これであのぼろ屋ともおさらばだな。ああ。でもエロ本は買い直さないと」
「燃やされてもいいのか?」
「火事ならすぐに気付くだろ。ノートンさえ無事なら問題ない。あいつは今病院だしな」跡羅は「だけど」と続けた。「あの執事につけられ続けるのは勘弁願いたいね。これ以上やられるとノイローゼになる。あいつ、ストーカーとか向いているよ。あるいは探偵だな」
跡羅は楽しそうに笑った。かと思えば真剣な顔で人差し指を立てる。
「提案がある。オレと勝負しないか?」
「勝負?」
「イエス。お前らオレの家に入りたいんだろ? できれば合法的に。そうさせてやるよ」
「本当か?」
「ああ。ただし制限時間は十分。これは一般的な空き巣が一件にかける時間だ。その間にお前がボロボロの新聞を見つけられなかったら潔く負けを認めて手を引くと約束しろ」
魅力的な提案だった。いくら写真を見ても細部までは分からない。手っ取り早いのは中に入って探すことだが、それはどうにも気が引ける。
だが制限時間は十分しかない。それまでに見つけられるかどうか……。
悩むボクを跡羅は冷たく見下ろした。
「人生で最も重要なのは選択と行動だ。それができない人間は理想を頭に思い浮かべたまま死ぬしかない。決断しろよ。オレが今問うているのは格だ。この答えでお前の格がはっきり分かる。目の前にあるチャンスに手を伸ばせない人間に先はない。それともお前は檻の中で一生を過ごすハムスターで終わるつもりか?」
明らかな挑発だった。ボク如きに探し出せるわけがないと決めつけている。
それが癪に障った。だけどだからじゃない。もしホームズならこんな状況でもいとも容易く真実を見つけ出してしまうはずだ。そう考えたからボクは告げた。
「この写楽ほむら。その勝負、謹んでお受けする」