現れたのは整った顔に優しい目つきの若い男だった。
すると扉をちょっぴり開けて男の素顔を見ていた真里亞が声を出す。
「あ! 洲本久遠!」
「ほら。ここにもファンがいる。サインをあげるからこのことは黙っていてくれるかな?」
「もちろんです! わあ。本物だあ」
真里亞は目を輝かせているが、生憎ボクは洲本久遠なる俳優は知らなかった。
「有名なのか?」
「え? 知らないの? いつもなにかしらのドラマに出てるのに?」
「生憎ドラマはシャーロック・ホームズの冒険しか見ないんでね。主演のジェレミー・ブレットの気むずかしそうな顔と露口さんの吹き替えが合ってて最高に格好いいんだよ」
「ほむちゃん……。本当に女子高生なの?」
失礼な。
すると洲本は嬉しそうに笑った。
「別にその子が女子高生でも男子高生でもなんでもいいよ」
よくはない。ボクはれっきとした女子高生なんだから。
「と言うと依頼することを決めたみたいですね」
「ああ。良い推理力だ。これならあれを見つけられるかもしれない」
「あれの内容を聞く前に言っておきますが、依頼を受けるかどうかはまだ決まっていません。もちろん聞いた内容は絶対に公表しませんが」
「依頼を受けると言ってもらわないと話せない。事態はそれほど深刻なんだ」
「しかしですね」とボクが言うと真里亞が口を挟んだ。
「受けてあげなよ。久遠さんが困ってるんだよ」
「いやでも……」
犯罪の協力をさせられる可能性もあるし、やりたくない依頼の可能性もあるとは本人の前では言えず、ボクは真里亞を近くに呼んで耳元で囁いた。
「なんで彼の肩を持つんだ? 和藤のことが好きなんじゃないのか?」
「もちろんそうだよ。でも異性として好きと、イケメンとして好きは別ものでしょ?」
「どう違うんだ?」
「全然違うよ。パンとケーキぐらい違うよ」
意味が分からない。分からないが真里亞のうるうるとした瞳で見つめられるといやだとは言えず、ボクは渋々頷いた。
「……分かりました。受けましょう」
本音を言えばイヤな予感がするから受けたくなかったが、親友に頼まれては断れない。ホームズがワトソン以外の友達を作らなかった理由がよく分かった。