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第42話

 翌日。学校で授業を受けていたボクはぼんやりと窓の外を眺めていた。

 最近色々な事件があった。事件を起こすのはいつも人で、人は思っているよりも複雑な過去や感情を持っている。感情とは常に一筋縄ではいかないものだと今ではよく分かった。

 ホームズはそのことをよく知っていたのだろう。だからこそ自分の中にはなるべくそれを持たないようにしていた。

 ワトソンはこう言っている。『あらゆる情緒、こと愛情のごときは、冷静で的確、驚くばかり均斉のとれた彼の心性と、およそ相容れぬものなのだ』と。

 だからこそホームズは恋をしなかった。ただ一人の女性を除いては。

 ホームズは一時的にワトソンと一緒に暮らしていたが、それもワトソンが結婚すると会う機会も減っていった。そして当然恋人もいない。ベイカー街のアパートで古本に囲まれて謎を解く暮らしを続けている。

 そう。彼は孤独なのだ。だが、だからこそ人々を平等に見ることができたのだろう。それは人を観察するということにおいてはとても大切なのかもしれない。

 ボクは孤独じゃない。父もいるしメイド達もいる。友達もいるしロキアンもいた。

 もしかしたらボクが名探偵になれていないのはそのせいなのかもしれない。

 なら和藤はどうなんだろう? そう言えば彼の私生活はなにも知らない。

 いや、たしか三人暮らしだと言っていた。両親と住んでいるんだろうか? それとも女性? まさかもう子供がいるとか? いや、女性が二人だという可能性も……。

 気になる。使用人の私生活にはなるべく関与しないようにしてきたがやはり気になる。

 六限目の終わり。校庭の奥をうちのセンチュリーが走るのが見えた。どうやらもうボクを待っているらしい。

 ボクの中でモヤモヤが大きくなった。こんな気分じゃまともな推理はできないだろう。

 ホームズが感情を嫌う理由が分かると、ボクはちょっぴり近づけた気がして嬉しかった。

 それでもやっぱり孤独になりたいとは思わないけど。


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