ボロボロの新聞 上
我が家の夕飯は家族と使用人の全員で食べるのが習わしになっている。
そしてその全員の中には猫のロキアンも当然含まれていた。
いつも沢森が「ごはんやで~」と言うとどこからともなくロキアンはやってきて用意されたペットフードをもちゃもちゃ食べていた。
しかし今日は沢森が呼んでもやって来ない。あとで来るだろうと父が言い、みんなで先に食べていたが結局食べ終わるまでロキアンは来なかった。
心配になったボクは沢森と一緒に屋敷中を探し回った。
「もし破格の待遇で猫の国に招待されていたらどうしよう……」
「なんやねん。破格の待遇って」
「寝たいだけ寝て、食べたいだけ食べて、撫でてもらいたい時に撫でてもらえる待遇」
「今と変わらんやん。羨ましいけど」
「沢森も撫でられたいのか?」
「なんでやねん。まあ、そういう時もありますけどね。ここやと出会いもないですし」
沢森はしみじみと言った。たしかにここだと周りはメイドばかりだろうし、男も父と和登くらいしかいない。
ちなみに和藤はメイドの中ではあまり人気がないという。格好いいがきっちりしすぎているからというのが理由だ。仕事で手を抜くと冷たい目で見られるらしい。
沢森は小さく嘆息した。
「でも今はよう寝て、食べたいもん食べれる方が幸せですね。ここやと食費もかからんでええもん食べれるし、寝る時間も結構あるんでありがたいけど、たまには寝たいだけ寝るって期間もほしくなるんですよ。そこに優しい彼氏もおったら最高ですね」
「そういうものか?」
「そういうもんですよ。まあ、たまにでええんですけどね」
沢森はニコリと笑うと「さて」と言ってエプロンのポケットからかつお節の袋と扇子を取りだした。
「どこにもおらん時はこれやな」
そう言うと沢森はかつお節の袋を開けてその上を扇子で扇ぎだした。
辺りに良い匂いが漂うが、本当にこんなことでロキアンが来るのかと思っていたら来た。
ボクはどこからともなくトコトコとやってきたロキアンを複雑な気持ちで抱き上げた。
「……来るのか。君は思っているより単純だな」
ロキアンはにゃーと言ってかつお節の袋をくんくんと匂う。
沢森はあははと笑ってロキアンを撫でた。
「現実の男もロキアンみたいに素直やとええのになあ」