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第30話

   ボスネコ谷の復讐劇 上



 金曜の夜。

 ボクが食堂でフォークとナイフを持って夕飯を待っているとおいしそうなハンバーグを運んできた沢森が不思議そうにした。

「あれ? パパさん遅いな。いつもは時間になったらちゃんとおるのに」

 沢森の言う通り父の椅子は空のままだ。

「仕事が忙しいんだろう。ボクが呼んでくるよ」

「ほんまですか? じゃあお言葉に甘えて。ウチはみんなの分運んどきますわ」

 ボクは椅子から降りると父が仕事部屋にしている書斎に向かった。

 ノックをして「夕飯ができましたよ」と告げると「うん。すぐに行く」と返事があった。

 ボクがドアを開けると父は革製の椅子に座って頬杖を付き、面倒そうに手紙を持って見つめていた。

「もしかして母さんからですか?」

「ん? いや、昔の知り合いからだ」

 父さんは小さく嘆息すると手紙を置いて髭を触った。

「良くない手紙なんですか?」

「うん……。あれ? なんで分かったんだ?」

「そりゃあ父さんが髭を触る時は厄介事を抱えている時ですから」

「さすがほむちゃん。名探偵だなあ」

「それほどでも」

 ボクが嬉しくなって笑うと父はゆっくりと立ち上がった。

「なんでも知り合いが襲われたらしい。それで意識がなくって入院してるって知らせだ」

「大変じゃないですか? お見舞いには行かないんですか?」

「う~ん……。仕事も忙しいしなあ……」

 父はなんとも歯切れが悪かった。どうやらあまり親しい仲ではないらしい。

「行った方が良いのは分かってるんだよ。でもなあ、昔から苦手なんだ。どうもこう」

「こう?」

「…………まあ、合わないって言うかな」

 父は苦笑していた。こんなことを言うのは珍しい。日頃から誰にでも優しいのが父だ。それが良いところでもあり、悪いところでもある。

 特に商売ともなるとライバルと戦わないといけないこともあるのだ。しかし父はそれができず、そのせいで黒斗兄さんと袂を分かったわけだった。

 だが兄さんが甘いと断じた父の性格がボクは好きだった。

「お困りでしたらボクが行きましょうか? 父さんの代理として」

「え? いや、でも……」

「もちろん和藤も一緒です」

 父は少し考え、「……まあ、それなら」と合意して優しく笑った。

「ほむちゃんは優しいなあ」

「それはもう。あなたの娘ですから」

 そう答えると父は嬉しそうだった。

 そのあとみんなで仲良くハンバーグを食べた。それが昨日の話だ。

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