屋敷から車に戻る間、ボクはうなだれていた。和藤はそんなボクを心配する。
「どうなされたのですか? せっかく事件を解決したというのに」
「…………ボクは自分が恥ずかしいよ。密室の謎に囚われ、サラさんの安否など気にもとめなかった。無事だったからいいものを、もし怪我でもしていたらと思うと……」
ボクはしょんぼりしながら和藤を見上げた。
「君はずっとサラさんを気にしていたな。どうして分かったんだ?」
「なにも分かってはいませんよ。ただ、始めにヘレンさんは姉は誘拐されたと言っていました。しかし父親は遊びに行ったと言っています。肉親というのはそういう勘がよく働くものです。ならもしその二つともが合っていたとしたら。そう考えただけですよ」
「つまり自分で外に出て、そこで監禁されたと。……なるほどな。二人とも合っていたわけだ。なのにボクは……」
ボクは大きくため息をついてからムッとした。
「き、君も君だぞ。サラさんが危ないと分かっているならそれを先に知らせるべきだろ?」
「もちろんそれも考えました。しかし私はあくまであなた様の執事であり助手なのです。密室などそう簡単には出会えません。こちらのご主人も言っていましたが、人はなにかを乗り越えた時に強くなれる。私が口を挟めばその機会を奪ってしまうかもしれないと思い、進言できませんでした。申し訳ありません」
和藤は頭を下げた。それを見てボクはなんともきまりが悪く感じた。
全てはボクのためだったのだ。和藤はなによりもボクを優先してくれた。
それは少し非常識だが、同時に嬉しくもあった。
ボクは立ち止まり、和藤の服の袖をちょんと握った。
「……その、助けてくれてありがとう」
和藤が振り向くとボクはそっぽを向いた。顔が熱く、見られたくなかった。
そんなボクを見て和藤は優しく微笑んだ。
「お気になさらないでください。あなた様のお役に立つことが私の役目ですから」
和藤はそう言うとすぐ近くの車まで歩き、ドアを開けた。ボクが車に乗ろうとすると和藤は告げた。
「帰ったらお疲れでしょうからまず汗を流してください。お風呂の準備はできています」
ボクは「うん」と頷いてしばらくしてから赤面した。
どうやら和藤にはなにもかもお見通しらしい。