またあの紐 上
休日の朝というのはどうしてこれほど眠たいのだろうか。
特によく晴れた日曜の朝はうつらうつらとするためにあると言っても過言じゃない。
ボクがふわふわした気分で居間のソファーに座り、何十回も読み返したホームズ全集をめくっているとメイドの沢森がドタドタと走って来た。
「ああ! もう! どこ行ったんや!」
「……どうした? ニャンターニャンターの三十八巻ならまだ出てないぞ?」
「なんの話しとんねん! ちゃいます。ロキアンや」
「ロキアン?」
ボクが首を傾げると沢森は頷いた。
「そうです。うちが編み物しとったらロキアンが編み紐を咥えて取ってたんですよ」
「ははは」
ボクが呑気に笑うと沢森はムッとした。
「笑い事ちゃうわ。日曜の朝からこんな無駄に広い屋敷の中を探さなあかんねんで。せっかく良い感じのまだらの紐を見つけて来たのに」
「だからだろう。彼の名はロキアンだ。そんな紐には目がないのさ」
「意味分からん。とにかく藍染めの紐を見つけたら教えてくださいよ」
「承知した」
「まったく。ロキアンはどこ行ってん?」
沢森はぶつくさ言いながらフリルのついたスカートを摘まんで走って行った。
朝から騒がしい。だけどそれが心地よくもあった。
父さんはなんだかんだ言って忙しいし、兄も随分前に家を出て実業家として生きている。母は海外で暮らしているし、祖父は幼い頃に亡くなってしまった。
今の時代、普通の家族というものがどういう形をしているかは分からないが、休日に一家団欒なんてものはここにはなかった。
だからこそメイドや執事、そしてロキアンとの生活はボクに取ってありがたかった。
ボクはこういうのを幸せというのかも知れないと思いながら日向の中でまどろんだ。