帰りの車でボクは運転する和藤に告げた。
「今になって分かったよ。君が沢森に質問した意味が」
「どういう意味でしょう?」
「気を遣って惚けないでいい。君は沢森にうちの学校でどんな部活があるか聞いていた。おそらく歌やダンスを部活動で身に付けられないかという意味だろう。部活があればそれに入るのが手っ取り早いからな。学校の中なら父親の目も届かないから安心だ。しかし結果としてそういった部活はなく、古葉先輩はリスクを犯して習い事に向かっていた。つまりあの質問をした時点で君は事件の真相に気付いていたというわけさ。そう言えば老婆に領収書を切らせていたな。あれも目が悪いことを確認するためだったんじゃないのか?」
「偶然ですよ。そんな意図はありません。沢森に部活のことを聞いたのはあなた様が部活を始めると言い出した時、サポートできるように尋ねただけですし、領収書がなければあのお菓子は経費で落ちませんからね」
「ふん! どうだか!」
ボクはムッとして頬杖をついた。そして今になって己の無力さを痛感する。どうやらボクはまだまだ名探偵には程遠いらしい。
和藤はバックミラー越しにボクの顔を見て静かに笑った。
「今回の事件が解決したのはあなた様の業績ですよ」
「ホームズはギュスターヴを引用していたな。『人はむなしく、業績こそすべてだ』と。今回の事件だって他の人が見ればボクが解決したことになるんだろう。まったく、ボクはこの上なく不愉快だよ。評価を受けるべき人間がそれを受けないと世間は腐る」
「さあ。なんのことでしょうか」和藤は改めて惚けた。「どちらにせよ、あなた様の退屈を忘れる手助けができたのなら私にとって光栄なことです」
和藤はニコリと笑い、そして今度こそ車を屋敷に向かって走らせた。