ボクが校門まで戻ってくると真里亞はまだ和藤をうっとりと眺めていた。
和藤は車のドアを開け、ボクはそこから車内に入った。ドアを閉めると窓を開けて真里亞に手を振る。
「じゃあ、また明日」
「うん。また明日ね~」
真里亞は幸せそうに手を振り替えし、その場でデレデレと笑っていた。
車が動き出すとボクは口を尖らせて和藤に告げる。
「選り取り見取りだな」
「若い頃は年上の異性が特別に見えるものですよ。それで、どこに向かいましょう?」
「白々しい」バックミラーにはボクの湿った目つきが映っていた。「どこに行くべきか。君は既にそれを知っているんじゃないのか? 少なくともこの道は帰り道じゃないぞ?」
和藤はフッと微笑した。
「素晴らしい観察眼です。さすがはホームズ」
「皮肉にしか聞こえんな。それで? この車はどこに向かっているんだ?」
「これはあくまで私の勘ですが、駅へ向かった方が良いかと思いまして」
「なるほど。今日なのか。それも全て調べ済みというわけだ。面白くない」
ボクはムスッとして頬杖をついた。和藤は困った笑みを浮かべる。
「まだなにも言っていませんよ。それにあなた様の言う通りだったとして、それは少し早いかどうかの差でしかありません。どうぞ自分で導き出した論理に胸をお張りください」
「生憎真里亞と違って張る胸もないんでね」
「そういう言葉遣いには感心できませんね」
「否定はしないんだな」
和藤は沈黙して運転を続けた。これ以上ない雄弁な沈黙だった。
それを終えると和藤は諭すようにこう告げた。
「高級品と同じです。大事なのは見せ方なのです。あなた様が今すべきはかわいらしくふてくされるのではなく、ホームズとしてどう振る舞うかではありませんか?」
ボクは図星を指されてうっとなった。そして小さくため息をこぼす。
「……新猫鮭駅に行ってくれ」
「かしこまりました」
車は進路を変えず、山の麓にある駅へと向かった。