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第12話

 そのあとの美術でボクはガックリしながらデッサンをしていた。

 しょぼくれるボクを見て真里亞が心配する。

「大丈夫? 保健室行く?」

「……いや、問題ない。だけど正直ショックだよ。自分の推理が間違っていた時、ボクはいつも悲しくなる。ホームズなら話を聞いただけで真相に辿り着いてしまうというのに、未だにボクは五里霧中だ」

「大丈夫だよ。いつか解けるって。あ。そうだ。和藤さんに聞いてみたら? あの人ならみんなが気付かないことにも気付いているかもしれないよ。ほら。『六つの使命』の時もそうだったし。聞くのが恥ずかしいならわたしもついていこうか?」

 ボクはムッとした。

「真里亞は和藤に会いたいだけだろ? それにボクはなるべく自分の力だけで事件を解決したいんだ。だけどまあ、もし残りの推理も間違っていたら聞いてみるのもいいかもしれない。最も優先すべきは依頼人の利益だからな」

「お給料もらえないなんてかわいそうだからねえ。ちなみに残りの推理ってなあに?」

 ボクは少し恥ずかしく思いながら答えた。

「…………ぎ、銀行強盗だ」

「わお。過激だね」

「猫毛組合の後ろがちょうど銀行なんだ。店主はそこからカネを奪うために自分の家の地下を掘り進める計画を立てた。だがそれだと店番する人間がいない。だから瑠偉先輩を雇い、その間自分は地下に潜って穴掘りに興じる。そうも考えたけど……」

 真里亞は苦笑いした。

「いくらなんでもそれはないんじゃない?」

 ボクはため息をついた。

「そうだよなあ。あの一帯の地面はコンクリートで固められてたし、もし掘るなら大型のドリルが必要だ。そんなもので掘ったらすごい音がするだろうし、なによりバイトなんか雇わずに店を閉めてしまった方がいい。大体銀行に見つかったらすぐさま家の持ち主を割り出して指名手配されるはずだ。分かってるさ。この推理が荒唐無稽なことくらい」

「他にもあるの?」

「猫泥棒の犯人が怪しまれないように瑠偉先輩に猫を預かってもらっていたとも考えた。盗った猫を任せている間に別の猫を盗みに行っていたんじゃないかと思って」

「でも三毛猫はメスだったんでしょ?」

「猫自体に価値はなくても誘拐して飼い主から身代金を奪うことはできる。アメリカでは流行の手さ」

「え~。ねこちゃんがかわいそう」

「まったくだ。だが身代金が要求され、もし払っていたら飼い主が警察に通報してニュースになっているはずだ。ネットで閲覧できる猫鮭新聞でここ最近起きた事件を調べてみたがこの町でペットの誘拐事件は起きてない。もしあれば注意喚起があるはずだからな」

「じゃあそれもハズレっぽいねえ」

 ボクは「ああ……」と答えて俯いた。三つあった推理の全てが空振りだ。野球なら三振でベンチに下がることになる。

 真里亞は立ち上がるとそんなボクの元にやってきてよしよしと頭を撫でてくれた。そしてボクが描いた絵をしみじみと見つめる。

「相変わらずの浮世絵だねえ」

 そうなのだ。ボクが描く絵はなぜかいつも浮世絵調になってしまう。モデルの生徒を忠実に描いたつもりだが、これだと花魁だ。

「ああ。推理どころか絵もまともに描けやしない。ボクはなんて愚かな十五歳なんだろう」

「いい子いい子。いい子だから和藤さんに聞きに行こうねえ」

「くっ……。その上友達にも利用されるとは…………」

 ボクは悔しくてほっぺをプクリと膨らました。


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