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第8話

 和藤と共にまず向かったのは瑠偉先輩が働いていたという古物店、猫下組合だ。

 その店は商店街の一角にあったが、言っていた通り閉まっていた。店内は白いカーテンのせいで見えないけど、僅かな隙間からまだ商品が残っていることは見て取れた。

「ほむう。とりあえず周りを探ろう」

 ボクと和藤は古物店の周りをぐるりとまわった。

 古物店はちょうど左の角になっていて、右に三軒続いており、そこから脇道に逸れると後ろは民家と駐車場、そして猫鮭銀行の支店があった。

「思ったより人通りが少ないな」

「十年前にショッピングモールができましたからね。それまではここに来る人も多かったんですが、今は地元の人くらいでしょう」

 なんとも寂しい話だ。こうして町は衰退していくのだろう。ボクが大人になった時にはこの商店街もなくなっているかもしれない。

 古物店の隣の店もシャッターが降りていて、その隣には小さな花屋があるくらい。

 通りの向かいはたばこ屋だが、そこも閑古鳥が鳴いていた。他にも店はあるが今のところ客が入って行くところは見ていない。

 このままだとなんの手がかりもないのでボクはたばこ屋に向かった。そこでは小さな老婆が腰を曲げて座布団の上に座っている。老婆はずっとラジオを聞いていた。

「あの、聞きたいことがあるのですが」

「んー? ああ、ダメだよ。ボクちゃん。未成年には売らないからね」

「いえ。煙草を買いに来たわけではありません。それにボクちゃんでもありません。向かいの古物店について二、三聞きたいんです」

「古物店? あー。みーちゃん達の。なんか、潰れちゃったみたいだねえ」

「みーちゃん? それはもしや若いご婦人ではないですか?」

「そうだよ。いくつだったかは忘れちゃったけど。あれ? いくつだったかね? もう自分の歳も分からなくなっちゃったよ」

 老婆が笑うと入れ歯が落ちた。それをまた口に入れる。

「そのご婦人はどういった方でしたか?」

「どうって、お父さんのお店を任されてた子だよ。なんでも出戻りだったみたいだけど」

 ボクは隣の和藤に向けて疑問符を浮かべた。すると和藤は手をあて耳元で囁いた。

「離婚されて実家に戻った女性です」

「なるほど……。まあうちだって母は海外にいるし、色々あるんだろう」

 ボクは老婆に向き直した。

「そのご婦人の父親は誰だか分かりますか?」

「それなら分かるよ。大ちゃんだよ。息子の同級生だからね。前は仕事のない毎週土曜日にここに来てよく話してたんけど、最近は全然見ないねえ」

「どういった話を?」

「世間話さ。客は来てるかとか、売り上げはどうだとか、海とか源さんとかエヴァとか」

 ボクがまた和藤を見ると「パチンコです」との答えが返ってきた。

「できれば大ちゃんさんの本名と住所を知りたいのですが」

「本名……。なんだったかね? 息子に聞いたらすぐに分かると思うんだけどね。家も前は近くにあったんだけど、今は儲かってるのもあって街の方のマンションで住んでるらしいよ。どこに住んでるかまでは知らないねえ。息子なら知ってるかもしれないけど」

「そうですか……。お仕事中失礼しました。また来ます。あ。せっかくだしみんなに何か買って帰ろう。そこにあるお茶とお菓子をいくつか見繕ってください。支払いはネコペイでいいですか?」

「うちは現金だけだよ」

「現金……」

 ボクは財布を取りだして中を見た。だけど最近スマホ決算ばかりで持ち合わせがない。

「ないならそこの裏に銀行があるよ」

「私が立て替えましょう」

 和藤が財布を取り出した。

「領収書をお願いします。名義は写楽岩葉で」

「領収書……。どこにやったかね……」

 それから老婆はしばらく領収書を探した。色々な引き出しを開けるがこれじゃないとこぼす。結局領収書はすぐ近くのちゃぶ台の上に置いてあった。

 和藤は老婆に領収書を書いてもらったが、それを書くために老眼鏡を探さないといけなかったのでさらに三分ほどかかった。

 お茶とお菓子は使用人室に差し入れとして和藤が預かった。

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