猫毛組合 上
朝。庭にある大きなサクラの木に小鳥が集まり、可愛らしく鳴いていた。
それを聞きながらボクが目を覚ますと掛け布団の中でなにかが動いた。
寝ぼけ眼のボクが足下の方に目をやると布団から猫のロキアンが出てくる。
ロキアンはヒマラヤンという毛の長い品種だ。顔と中心と足と尻尾だけ黒く、残りは白かった。目は青く、毛はふわふわだ。
「……おはよう。ロキアン。いつ入ったんだい?」
ロキアンは何も答えずにボクの顔の近くに来て丸くなった。ボクはロキアンに顔を埋めながら撫でてあげる。
「ああ……。ずっとこうしていたい……。このまま夜になってもボクは満足だ」
しかしそうはいかない。今日も学校に行かなければならなかった。猫を撫でていて遅刻したと言えば笑いものになってしまう。
ロキアンが動いたらボクも動こう。そう思っていたのにロキアンはまた寝息を立て始める。ならばとボクもロキアンと一緒にうとうとしていると廊下から急いだ足音が聞こえた。
ノックと共にドアが開かれ、聞き慣れた関西弁が飛んでくる。
「お嬢様! もう七時半やで? はよ起きぃ!」
若いメイドの沢森はまだベットの中にいるボクを見てドカドカと中に入ってきた。
「……おはよう。沢森」
「おはようさん。挨拶なんてええからはよ起きてください。お嬢様が遅刻したらうちらが旦那さんに怒られるんですよ?」
「せやかて猫がふわふわなんや」
「猫はいつでもふわふわや。どうしても起きないんならロキアンごと連れていくで」
「それはロキアンに申し訳ないな」
ボクはロキアンを起こさないように体を起こし、ぐっと伸びをした。今日もいい天気だ。
「和藤は?」
「もう来てはります。あの人はお嬢様と違って時間に正確ですから。ほら、早く着替えて。ああーああー。パジャマが毛だらけやんか。もー」
沢森はボクから強引にパジャマを脱がすと制服に着替えさせる。
着替えながらもボクは朝陽の中でのんびりと眠るロキアンを見ながら苦笑した。
「時折思うよ。人間は猫を飼っていると思っているが、その実猫に飼わされているんじゃないかとね。でないと人の方が忙しくしている意味が分からない」
「早起きすれば忙しくせんでもええんですよ。ほら。顔洗って来てください。そのぼさぼさの髪もなんとかせえへんと」
ボクらが慌ただしく部屋から出て行く間もロキアンは優雅に二度寝を継続していた。