革張りの椅子へ腰掛けた幼女に、男は優しく語りかけた。
「さあ、お嬢ちゃん。悩みを聞かせてごらん。」
男は中年の弁護士で、市が開設したサロンで無料の法律相談をしている。当初は軽い気持ちで市からの依頼を請けたが、思いの外若者からの相談が多いことに男は驚いた。家庭や学校。バイト先や恋人同士の問題。法の助けが必要な若者がこんなにもいるのかと、男はすっかり厭世的になっていた。そして今日は遂に、就学前と思しき女児が一人で相談所にやって来たのだ。
革張りの椅子にチョコンと腰掛けた幼女に、男は虚しさと社会への怒りを抱きつつ、穏やかな口調で優しく語りかけた。さあ、お嬢ちゃん。悩みを聞かせてごらん。
「ママがね、いい子にしてないとサンタさん来ないよって、嫌いなトマトを食べさせるの。弁護士さん、これって脅迫ですよね?」
虚を突かれながらも男は平静を装い答えた。
「し、親権者からの教育上のある程度の懲戒は、民法で認められているんだよ」
すると幼女は席を立ち呟いた。
「フッ、悪法もまた法ね」