私は文豪。これから編集が来るというのに、原稿は真っ白。一行も書けちゃいない。なので仮病で窮地を凌ぐことにした。台所のケチャップを羽織の袖に忍ばせ、よし準備万端。コンコン。お、ちょうど良いところで編集が来た。うむ入り給え。いや参ったよ君。実は体調が頗る悪くて…ゴホゴホ。軽く咳き込んでみせてウッと大げさに噎せながら私は、袖口に隠していたケチャップを口元に放出した。ゴボッ!いかん!吐血した!私はもう駄目だ!だから君、今日のところはだな原稿は諦めて社に帰ってだな……。ん?なんだと?ちょうど輸血パックを持っているから、ワシの血液型を教えろだと。そう言って編集は、鞄からカゴメとデルモンテの袋を取り出した。
その日のうちに私は山奥の宿に幽閉され、原稿があがるまで缶詰となった。その境遇、さながら、ホールトマトのごとく。