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第11話 新たな生活 1

《sideマリアンヌ・ローレライ・マルチネス》


 うららかな春の日差しが差し込んで鏡に反射しています。


 私は普通の人たちが就職シュウショクや婚姻などで慌ただしくしている間に、婚約破棄問題を解決するために両親や、本婚約者様と話し合いを行なっていました。


 その間は就職活動もできないので、興味のある分野を勉強する日々を送っておりました。


「おはようございます。お父様、お母様」

「マリアンヌ、大丈夫なの?」

「お母様、もう私は大丈夫です。それにやりたい事ができましたから」


 クリス王子が起こした事件は、公の場であったこともあり、父である国王陛下がお怒りになられて、クリス王子は廃嫡処分ハイチャクショブンを受けました。


 国王陛下は親として、クリス王子の所業を謝罪してくださいました。 


 クリス王子が私にした仕打シウちの詫びとして、国王陛下は私の望みに出来るだけ協力するとおっしゃってくださいました。


 ですから、私は就職先の斡旋アッセンをお願いしたのです。

 今日から私は仕事場に向かうために、スーツに身を包んで、仕事道具を持って家を出ます。


 お母様は婚約破棄で私の心が傷ついたことをナゲいてくれました。

 ですが、私は自分のやりたいことを見つけることができたのです。


「お前が仕事をするとはな」

「お父様にはご迷惑をおかけしました」

「なんのなんの! あのバカ王子のことは気にしなくていい。国王陛下も処分を下してくださった。マリアンヌのしたいようにしなさい」


 お父様はクリス王子に対して怒りを爆発させて、国王陛下がドン引きするほどでした。


 二人からたくさんの愛情を注いでもらえていたことがわかって私は此度コタビの事件が、自分にとってだったのだと思うことにしました。


 あのままクリス王子と結婚して、シル男爵令嬢を愛人に迎えていたなら、愛されない人生を送ることになっていたでしょう。

 それを思えば、自分の生きたい人生を生きられるのですから良かったのです。


「それではお父様、お母様、行ってまいります」


 二人に挨拶をして、私は家を出ました。


 しばらくは実家から仕事に通うつもりです。

 仕事に慣れてくれば一人暮らしの家を借りてもいいと思っています。


 いつまでも侯爵令嬢ではなく、社会人の一人であるマリアンヌとして生きていくのです。


 少し早い時間に家を出たおかげで余裕がありますね。

 侯爵令嬢であった頃は、どこに行くのも馬車移動する日々でした。


 こうやって徒歩で仕事場に向かうことなど考えたこともありませんでした。


 貴族区にある侯爵邸とは違って、行政区は、国の仕事を管理するエリートたちが行き交っているはずです。


 貴族区から、市民区に入り、商業区を抜けて、行政区へ向かっていきます。


 徒歩で街並みを見るのは楽しいです。


 市民区や商業区の道路は整備が追いついていないこともあり、川のブーツを履いてきて良かったと思いました。


 王国は、これから発展を遂げていく途中なのです。


「退け退け!!!」


 大声の御者が馬車に鞭を打って商業区に突撃してきます。


「なっ!」


 商業区では、大勢の市民が買い物に来ているので、危ないことをする馬車がいるものです。


「キャーーー!!!」


 案の定、馬車の前に一人の少女が飛び出してしまいました。

 それを庇って母親が怪我を負ってしまったようです。


 私は回復魔法が行えるので、急いで現場に向かって少女と母親に回復魔法をかけます。


「ああ! ありがとうございます! こんなにも高価な魔法を!!!」

「気にしないでください。応急処置ですから」


 回復魔法をかけると怯えた表情を見せる母親に、優しく声をかけて落ち着いていただきます。


「貴様!!! ボーソ男爵の馬車にぶつかるとは不敬であるぞ!」


 貴族は特権階級が認められていて、多少の横暴な振る舞いが許されています。

 だからこそ、周りの市民は男爵と聞いただけで怯えたような態度を見せました。


 自分に火の粉が飛ばないように離れていってしまいます。


 悪しき風習フウシュウだと思いますが、まだまだ法の整備が行えていない我が国では、これが現状なのですね。


「あなたこそ!」

「申し訳ありません! 申し訳ありません」


 私が反論を口にしようとすると、母親が謝罪を口にしました。

 泥だらけの地面に頭を付けて何度も何度も謝ります。


「ふん、分かれば良いのだ! 傷ができた馬車の弁償代は請求させてもらうからな。名前と住所をここに記せ」

「はっ、はい」


 母親が名前と住所を書こうとするので、私は立ち上がってその紙を破り捨てました。


「なっ! 貴様! 何をする。市民風情が男爵様に逆らうのか!」

「あなたの方こそ、このような商業区でスピードを出して走り抜けて良いと思っているんですか?!」

「男爵様は急いでおられるのだ! 貴族様がどこを走ろうとかまわないに決まっているだろ!」

「お嬢様、おやめください。もう結構ですから。あなた様にまでご迷惑をかけてしまいます」

「いいえ。私は本日より、法務省で務める者として見過ごすことはできません!」

「何をっ!!」


 私はこのような横暴に対して一歩も引く気はありません。


 法は誰もが平等に権利を訴えることができるのです。


 あの方がそれを教えてくれました。


「ヤレヤレ、お転婆テンバなお嬢様の叫び声が聞こえると思ってきてみれば、あなたでしたか」


 久しぶりに聞いたあの方の声に、私は笑みを浮かべてしまいます。


「おはようございます。リベラ様」

「ふむ、本日から新人がやってくると聞いていましたが、あなたでしたか」


 スーツにステッキを突いて、右目には眼帯をしておられます。

 独特な雰囲気を持つシャーク・リベラ様に私は嬉々として微笑かけました。


「あなたはいつもトラブルの渦中にいるのですね」

「そんなことはありません。今回はたまたまです」

「またベターなテンプレを。貴族馬車の前に飛び出した少女ですか?」


 リベラ様は、私たちの状況を瞬時に察知して、御者ではなく馬車へ向かって行かれました。

 御者が慌てて止めようとしますが、リベラ様は馬車の扉を叩きました。


「なんだ!」


 馬車の窓が開きます。

 御者にボーソ男爵と言われていた男性が顔を覗かせました。


「私はリベラ子爵という者です」

「なっ! 子爵様!」


 慌てた様子で馬車を飛び出してくるボーソ男爵が、リベラ様の前で頭を下げられました。

 御者もリベラ子爵と名乗ったことで顔が青褪めて膝をついて頭を下げています。


 ここまで態度を一変させる者たちに私は顔をシカめたくなりました。

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