法廷を閉廷すると、一部の人間だけが特別な部屋へと案内されました。
「なっ、なんだここは?」
「エルディ様、そんなに慌てないでいただきたい。ここは《罪を問う部屋》と我が身は呼んでおります」
法衣を脱ぎ捨て、スーツにステッキを持った私の前にエルディ宮廷魔導士子息が立っておられます。
「あっ、あの、これはどういうことですか?」
法廷と同じく我が身から見て左側に原告席に座っていた三人。
そして、右側には被告席に座っていた三人プラス一人が追加されています。
「マリアンヌ様。先ほどはあなたが被告として訴えられた側でした。ですが、此度の一件でどうしても我が身は気になったことがありました。ですから、エルディ様。そしてウルティア様に来ていただきました」
我が身の発言によって、意識不明の重体であるはずのウルティア様に視線が注がれます。
「えっ、あっ、あの」
「ウルティア様、事情は先ほど話た通りです。此度の主犯であり、あなたには罪があります」
証人召喚は、死んでいる者でなければ召喚することができます。
法廷を閉じる寸前に召喚して、彼らがこの場になれる前に全ての事情を伝えました。
「皆さん、すみませんでした! 私が行った呪術で、こんな大変な事態になってしまって」
被告席で頭を下げるウルティア伯爵令嬢に、マリアンヌ侯爵令嬢たちが声をかけて励ましておられます。
「全くだ。貴様が余計なことをしなければ、このような大事になることはなかった。クリス王子も罪を問われることなどなかったのだ」
ウルティア伯爵令嬢の謝罪を受けて、エルディ宮廷魔導士子息が叱責を飛ばしておられました。それに対してウルティア伯爵令嬢は肩を振るわせて怯えた姿を見せます。
「ふむ。あなた方二人の関係性は理解できました。エルディ様に今一度問いたいことがあります」
「なんだ?」
「あなた様はウルティア様に謝罪する気持ちはありますか?」
「なぜ私がウルティアに謝罪しなければならない? 私は何も悪くないではないか!」
質問の意図を理解されていない様子で答えるエルディ宮廷魔導士子息に、流石に第二王子やグルガ騎士団長子息も理解はできたようです。
彼らもエルディ宮廷魔導士子息と大差ないが、それでも心がありました。
「ウルティア様、あなたはエルディ様の婚約者として、シル男爵令嬢とエルディ様が恋なかになったとしても、家同士の結婚は変わりません。それでもシル男爵令嬢を害そうとしました。罪の意識はありますか?」
「はい。とんでもないことをしてしまったと思っております。私がここに呼ばれ、彼女が大切にしているドレスを引き裂いたこと申し訳ないと思っています」
ウルティア様は追い詰められていました。
自分が、エルディ宮廷魔導士子息に捨てられてしまうのではないかと、だから今回の暴挙に出たわけですね。
だが、貴族同士の婚姻がそう簡単に解消できることではありません。
それは家同士の結びつきであり、今後の政治体制や派閥争いに必要なことだからです。むしろ、婚姻を蔑ろにして、敵派閥に妻を差し出したバカな息子として家族に迷惑をかけたことになるでしょうね。
第二王子や宮廷魔導士子息は父親からの扱いは軽くなることでしょう。
貴族とは政治を司る立場にあります。
それが理解できない者はいくら可愛い子供でも、貴族の爵位を任せることはできないのです。
「わかりました。証言ありがとうございます」
「ふん、とんだ茶番だな」
「エルディ様、あなたを法で裁くことはできません」
「当たり前だ。私は何も悪いことをしていないのだからな」
「はい。ですが、私は最初に躾を行うために出てきたと言いました。第二王子には法律を持って罪を与えました。グルガ騎士団長子息には暴力を持って罰を与えました」
王子には法律で。
騎士には暴力で。
「ですからあなたには魔法で罪を与えようと思います。あなたは魔法に絶対の自信があるのでしょう?」
我が身から巨大な炎を生み出されます。
「その程度の魔法がどうしたのいうのだ?」
同じ大きさの火の玉を作り出したエルディ宮廷魔導士子息。
「力比べと行きましょう。我が身から放たれるファイアーボールをあなたが消滅させたら不問。ですが、消滅させることができなければ、業火に焼かれてください」
「面白い! お前を業火に焼いてくれる!」
私は作り出したファイアーボールをエルディ宮廷魔導士子息に放ちました。
「バカが、手を離せばもう魔力は込められぬぞ。私はもっと大きく強くできるぞ!」
我が身から放たれてた火の玉よりも大きく魔力を込めたファイアボールが放たれて、二つのファイアーボールが激突しました。
「バカめが! 魔法の才能もないくせに私に挑むから行けないのだ!」
「バカはあなたですよ」
エルディ宮廷魔導士子息が放ったファイアーボールは激突した瞬間に霧散して消え去ります。
「なっ!」
「業火に焼かれてしまいなさい!」
エルディ宮廷魔導士子息にファイアーボールが激突すると炎の柱が出来上がり、業火に焼かれていきます。
「ぎゃああああああああ!!!! 熱い!!!! どうしてどうしてだ!!!」
「なんです? そんなこともわからないのですか? あなたに才能がなく弱者だからですよ。雑魚がイキがるから簡単に負けて死ぬのです。私はフェミニストなんです。女性を蔑ろにするあなたは一番腹が立った回答をしていましたよ」
法では裁けない人間は存在します。
ですが、我が身が生み出す法廷は、正式な裁判ではありません。
あくまで我が身から生み出された能力です。
「ああああ!! エルディ様! エルディ様! どうか、どうかエルディ様をお救いください。彼は才能があり、これからの王国を支える人材です。どうか、私の命など好きにしていただいて構いませんので!」
そう言って泣きついたのはウルティア伯爵令嬢でした。
不思議な者ですね。
あのような最低な男に惚れた女性がいるのです。
シル男爵令嬢は、声も出さないまま固まっていました。
「そうですね。ウルティア伯爵令嬢。あなたも罪深い人だ。あの炎に飛び込んでエルディ様を助け出せたなら炎を消しましょう」
業火に焼かれ、すでに声も出せない真っ黒になるエルディ宮廷魔導士子息。
そんな彼を助けるためにウルディア伯爵令嬢は炎の柱に飛び込んでいかれます。
パチン。
その瞬間に、炎の柱は消え失せました。
「ウルティア。どうして?」
「あなたの婚約者ですから、愛しております」
「うっ、すまない。私はもう」
「最後までお供致します。私も、永くはありません」
二人が抱き合うように涙を流しておられますが、我が身はもう一度指を鳴らします。
「残念ながら、罪を償うために二人の傷を全て治させてもらいました」
「えっ?」
「なっ?」
二人が驚いた声を出されます。
死ぬはずだった二人の傷を治したことが、そんなに驚きでしょうか? これはあくまで躾ですからね。
「ウルティア伯爵令嬢は、シル男爵令嬢に対して母親の形見を傷つけた罪として、シル男爵令嬢とともに一年間学園に通って礼儀作法の指導をしていただきます。
エルディ宮廷魔導士子息は、その一年の間、魔法が使えない体になっていただきます。魔法の才能がないということをご理解されなされませ」
我が身は全ての罪を知る事ができて満足しました。
「以上を持ちまして、全ての判決を終了します。異議申し立てはありますか?」
質問に声を発する者はおりませんでした。
「それでは裏法廷を閉廷します。今後は裁判のお世話になりませんようにどうぞよろしくお願いします」
全ての謎に決着をつけて、彼らを元の場所へと戻しました。