王国を支える貴族や商人が集まれば、立派な公の場として認められるでしょう。
「マリアンヌ・ローレライ・マルチネス
パーティー会場の中央で発せられた言葉に注目が集まっていきます。
普段、お堅い
声高らかに告げられた言葉に、仕事に
「なっ! 何を言われるのですか?! クリス王子!
「ふん、白々しい。貴様が
これは
脳内に刻み込まれている知識に、
下級貴族に惚れた王族が、上級貴族の令嬢を悪者として、下級貴族を虐めたことを罪として、卒業パーティーという公の場で断罪するという話です。
悪役令嬢断罪物語で面白いところは、断罪された令嬢は幸せになり、断罪した王子たちが落ちぶれていくというのまでが、テンプレルートです。
「ワタクシは、そのようなことはしておりません! もしかしたら、ワタクシの
おお! 素晴らしい切り返しですね!
物語に登場する悪役令嬢には、何種類かのパターンが存在します。
1、本当にイジメをしていて処刑される令嬢。(この場合は死んで過去に戻って自分の行いを改めてやり直すまでテンプレ)
2、断罪されて追放された先で己の能力を開花させる令嬢が幸せを掴むまでがテンプレ。もしくは、王子よりも素晴らしい性格や身分の素敵な男性と出会って幸せになるテンプレ。
3、断罪に反論して酷い仕打ちを受けてしまう令嬢。(ダークな闇落ちをして復讐を誓って相手の女性と戦いをするテンプレ)
4、断罪された相手に、圧倒的強者としてやり返す強い令嬢。(賢い令嬢が断罪を察知して、断罪に対抗する手段をすでに用意しているテンプレ)
此度は、正式な態度で断罪に反論するタイプの令嬢というわけですね。
この場合は、処刑されてやり直しか、ダークな闇落ちか、はたまたやり返す準備を用意しているのか楽しみですね。
貴族同士の挨拶ばかりに
用意されたワインを口に含み、テーブルにもたれます。さすがは王族が開くパーティーというだけはありますね。ワインがとても美味しい。
「なんだと! シルに問題があるはずがないだろ!? 彼女は、男爵家として苦労しながらも
第二王子様の熱弁は、シル男爵令嬢を褒め称えるばかりです。あまり賢いとは思えませんね。
「我が王国の教育が行き届いていないばかりに、苦労をかけてしまった。誰よりも努力して勉学に打ち込み、我やグルガ、エルディと共に苦手な
三人の男性を手玉にとる
男女ともに顔がとても良いので、羨ましいことです。
第二王子様の側近の二人。
長髪メガネのエルディ
どちらも第二王子様であるクリス王子の派閥に属した少年たちです。
将来を
「そうです。クリス様に指導を受けている私に
おお! 今度は第二王子様の横にいる、悪女(ヒロイン)たるNTR令嬢の熱演とは素晴らしい。
今回の事件を起こした
虐めが争点というわけでしょうか?
切られたというドレスも証拠として、出てきそうな雰囲気ですね。
これに対して、断罪されるマリアンヌ侯爵令嬢が証拠を出さなければ決着かな?
賢そうに見えるマリアンヌ侯爵令嬢は、どんな返しをしてくれるのでしょうか?
「くっ! ワタクシは何もしていません」
おや、どうやら証拠は無しか……。
周囲に助ける者もいない。
ふむ、これはよろしくないですね。
「貴様はそれしか言えないのか?! どこまでも浅はかだな。シルはその時に切り刻まれたドレスを持って来ているんだ」
おお! やっぱり第二王子側は一枚上手ですね。
流石の行動力があります。
エルディ宮廷魔導士長子息が破かれたドレスを高々と
これに観客がどよめき、ヒソヒソと侯爵令嬢の悪口を来賓たちが話し始めます。
よくないですねぇ〜。
この流れはやっていなくても断罪されてしまうのではないでしょうか?
これでは一方的な言い分でつまらないですね。
「どうだ? もう言い逃れはできまい」
「ワタクシがやったという証拠にはなりません!」
ふむ、気丈に振る舞う女性の姿はとても美しい。
強い女性や、頑張っている女性が大好きです。
これでも自分で女好きを公言していますからね。
だからこそ悪女と言っても、男を落とすために頑張ったシル男爵令嬢殿にも
「白々しい!! もういい。証拠と証言が揃っているのだ!! 貴様の犯行に対して、貴様は犯人ではない証拠を何も出せんではないか! 話にならない!」
この場を支配しているのは、第二王子様に間違いないでしょう。
彼の怒声と地位によって、誰も反論を許さないのです。
「今日を持って貴様との婚約は破棄する。さらに貴様の家族も貴族社会から
「なっ! 家は関係ないではありませんか!」
「何を言っている! 娘の責任は親の責任だ。王族に嘘をつくような娘を育てたのだ。
ほうほう、それは随分と
さて、どうしたものか?
悩む我が身とは関係なく、マリアンヌ侯爵令嬢様は
しかし、すぐに顔を上げて鋭い視線を男爵令嬢殿へ向けられました。
「あなたにもっと周りへの
そう言って今にも飛びかかりそうなマリアンヌ侯爵令嬢を、グルガ騎士団長子息が取り抑えました。
「痛い!」
おっと、それはいけませんね。
男性が女性に暴力を振るうなど最低な行為です。
それが
「大人しくしろ!」
ここまで大人しく見ていましたが、気分の良いものではありませんでした。
「これを持って、マリアンヌ・ローレライ・マルチネス侯爵令嬢を有罪と『
我が身から発せられた声によって、人が自分ではないと首を横に振りながら避けていく。
中央への道が出来上がったことで、まるでモーゼの海割りのようだと思ってしまう。
「いや〜、ごめんなさいね。第二王子様」
我が身を晒すことは得意ではありませんが、仕方ありますまい。
あまりにも見ていて気分の良いショーではありませんでした。
仕方なく、注目を集める中央へ足を踏み入れていきます。