自分のものじゃない体温の感触に、ぼんやりと目が開く。朦朧とした意識の中、その温度の正体がれんなのだと気づく。いつもは決まってわたしより早く起きているけど、昨日の試合で疲れているからなのか、今日はぐっすりと寝ていた。わたしの身体にしがみつくような体勢で。
れんの寝顔は、日中のクールな印象とは対照的に幼い。その安らかな表情は子供の頃と何も変わらなかった。
「おねえちゃん」
れんの口が微かに動く。どうやられんの夢の中にわたしは出演しているらしい。そのことに、くすぐったい気持ちになる。わたしは無意識に、れんの頭を撫でる。昔と、同じように。
朝のぼやけた脳は、時折、意識を過去へと運ぶ。薄水色の光に包まれた朝の時間、昔と変わらぬ、れんの体温がわたしを追憶へと誘った。
「おねえちゃん!」
一つ下の妹、れんはいつだってわたしの後ろを付いてくる。ちっさくて、泣き虫で、無邪気だけれど、人見知りで。わたしがいないと何もできない。
そんな妹が、わたしはかわいくてたまらない。れんが甘えてきたら、いつだってぎゅっと抱きしめて、その頭を撫でてあげる。れんがいじめっ子に泣かされたときは、飛んで行って、その男子をこらしめる。
「怖かったね。もう大丈夫だからね」
「……うん」
「れんがピンチの時は、お姉ちゃんがいつだって守ってあげるから」
「ありがとう。おねえちゃん、大好き」
そういって、涙でぐちゃぐちゃの顔のまま、れんは笑う。
ちっさくて、弱くて、かわいくて、泣き虫なわたしの妹。わたしが絶対、何があっても守るから。
幼いわたしたちはいつだって、一緒にいた。絵本を読むときも、おままごとをするときも、公園で遊ぶ時も一緒。
「大きくなったらおねえちゃんと結婚する!」
いつからか、れんはそんな言葉を頻繁に口にするようになった。
それは、わたしに直接伝えるだけに留まらず、例えば食卓でも。
「お母さん、お父さん。あのね、れんね、大きくなったらおねえちゃんと結婚するの!」
そんな風に、はしゃぐ。
「そっか。二人の結婚式が楽しみだな」
お調子者のお父さんはそう言って笑う。背が高くて、運動が上手で、肩車をよくしてくれる。その、自分よりもはるかに高い風景がわたしは好きだった。優しくて面白い、自慢のお父さん。その隣で、お母さんも微笑んでいる。
私はこんな光景や時間が好きだ。お父さんとお母さんが好きだ。もちろん、れんも含めて家族が大好きだ。
れんよりもお姉さんなわたしは姉妹じゃ結婚できないって知っている。けれど、もしできるなら、それもいいかもなって思う。だって、わたしとれんで結婚したら、家族四人でずっと暮らせる。それはきっととても素敵なことだ。今の幸せが、ずっと続くなんて、これ以上のことはない。
そんなことを無邪気にも考えていた。