「やっぱりお母さんの肉じゃがはおいしい!」
「それはよかった。れんもどう、美味しい?」
「あ、うん。おいしい」
肉じゃが、お味噌汁、ごはんにサラダ、小さな食卓は三人分の料理を並べるには少し手狭だ。けれど、わたしはその窮屈さに愛しさを感じる。誰かと食べるご飯はいつもの数倍おいしい。普段は一緒にご飯を食べてくれないれんもお母さんがいる日は食卓についてくれる。それもすごくうれしい。
とうの本人は心ここにあらずといった感じだけど。先ほどから、口数が少ないのはいつもの通りだけど、返事に力が無かったり、ぼろぼろと箸の間から料理が零れ落ちたりしている。それを見かねてお母さんが尋ねる。
「ちょっとれん大丈夫?」
「だ、大丈夫」
そう答えた矢先、手を滑らせて箸をテーブルの上に転がす。一体どうしたのだろう? 所作や立ち居振る舞いの綺麗なれんらしくない。
心配になってわたしも思わず尋ねる。
「大丈夫? どこか具合悪いとか」
「お姉ちゃんには関係ない」
いつもの塩対応でそう返された。相変わらずわたしには冷たい。けれどそんな返答でも、久しぶりにお姉ちゃんって呼んでくれた、とか考えて嬉しくなっているあたり、感情の大きさが不釣り合い過ぎて泣けた。わたしはすこし、いやかなり、れんに甘すぎるのかもしれない。
「れんはもうちょっと言葉遣いに気を付けようねぇ」
お母さんがやんわりと注意する。
「ごめんなさい」
れんも素直に謝る。
「まあれんはずっと愛のこと大好きだから、照れ隠しみたいなものだもんねぇ」
「ち、ちが!」
れんが最近では聞いたことのないような大声を上げる。ゴンッと鈍い音が鳴る。食卓がガタッと揺れる。膝をぶつけたのか、れんは真っ赤な顔で苦悶の表情を浮かべていた。
「だ、だいじょうぶ?」
「大丈夫だから。お姉ちゃんは黙ってて」
わたしが尋ねるとれんはすぐに表情を戻して、毅然とした態度で答える。そんなわたしたちの様子をお母さんは微笑みながら見ていた。それから、しみじみとつぶやいた。
「それにしても、愛も告白されるくらい大きくなったのかぁ。考えてみれば、もうしようと思えば結婚だってできる年だもんねぇ。お母さんもいつでも娘離れできるように、今から準備しなきゃなのかもね」
げほっ、げほっ。
れんが盛大にむせた。その様子にさすがのお母さんも慌てて尋ねる。
「ちょっとれん、本当に大丈夫!? 血でも吐くのかってくらい勢いよくむせてたけど」
「だいじょうぶ。なんでもない」
そんな言葉と共に、れんは残っていた料理をものすごい勢いで平らげ、
「ごちそうさま、部屋戻るね」
そう告げて食卓を後にした。普段は凪のように冷静なれんが嵐のように去っていった。
「れん、本当にどうしたの?」
「わからない……」
わたしとお母さんは顔を見合わせて、首を傾げた。