靴箱から正門への道すがら、友香ちゃんは早口で捲し立てる。
「いい?校舎裏への呼び出しなんて十中八九告白なの。告白だと思ってたら実は違う要件でした〜、なんて展開はフィクションでしかあり得ないの」
「そういうものなんだ.....けど、文字の雰囲気からして女の子っぽいよ?」
「今のご時世、男も女も関係ないよ。それに、愛が女の子にモテるのは正直ちょっと解釈一致。優しいし包容力あるけど、チンチクリンでちょっと抜けてて守りたくなる感じとか、絶妙に母性本能をくすぐられる気がする」
「褒められてるのか微妙なんだけど......」
「褒めてる褒めてる。それに個人的には女の子の方が安心だな〜。愛ってなんか優しすぎるからクズ男にいいように使われる未来が容易に想像ついちゃうというか。パチンカスでヤニカスでバンドマンみたいな男に貢がされるのが似合っちゃうというか。その点女の子ならそんなことにはならなさそうだし」
「なんかやっぱり微妙に貶されてる気がするんだけど」
言いたい放題の友香ちゃんに呆れ声で尋ねる。
「いやごめん。愛のこういう話聞くの初めてだから、ちょっと浮き足だっちゃって」
「本当にもう。自分のそういう話は全然話そうとしないくせに」
「それはごめん。けど本当にね、嬉しいの。遂に愛の素晴らしさに気づく人が現れたか、とか、愛の可愛さが世界に見つかってしまったか、っていう古参オタクみたいな心境がね、雪崩のように押し寄せてきて。実際、私って世界で二番目に早い愛強火オタクみたいなところあるからさ」
「二番って、一番は誰なの?」
「......そういう鈍感なところが本当に可愛い! 推せる!」
「なにそれ」
そう言ってわたしは笑った。並べ立てる言葉は軽いものの、友香ちゃんは本当に嬉しそうで、わたしはまあ仕方がないかってそんな様子を眺めながら歩いていた。そうしている間に正門にたどり着いた。
普段ならわたしたちは帰る方向が同じなので途中まで一緒に帰る。しかし、今日は友香ちゃんがアニメイトに寄る日だ。アニメイトはわたしたちの帰路とは逆側の最寄駅から電車で行く必要があるから、彼女とはここでお別れだ。
「友香ちゃんアニメイト寄るんだよね」
「いや、本当に、本当にもっと愛の話を聞きたいのはやまやまなんだけど、総持先生の新刊だけはどうしてもその日にゲットしたいから。だから、例の件については明日の朝、作戦会議しよう」
友香ちゃんはわたしの手を力強く握ってそう捲し立てた。わたしはその圧に苦笑いを浮かべながら頷いた。
「わかった。また明日、相談に乗ってくれるとうれしい」
「任せて! 私自分の恋愛の話をするのは嫌いだけど人の恋愛の話を聞くのは大好きだから!」
友香ちゃんはそんな若干最低な言葉を残して離れていった。手を振りながら。
「約束だからね!」
って念押しして。
わたしはそんな彼女の背中を見送ってから、いつもの帰路へと歩みを進めた。
一歩、二歩。昔は田んぼだった風景は面影だけを残し、れんと駆け回った畦道は舗装されたコンクリートに代わり、住宅が建ち並ぶ、そんな半分田舎の街並みを眺めて。わたしを追い抜いていく自転車の、立ち漕ぎで揺れる制服のスカートや、肩にかけられた鞄、そこから垂れるストラップの軌跡を見つめて。
友香ちゃんが去って訪れた静寂の中で、少しづつ実感と疑問符が大きくなっていく。
わたしラブレターを貰ったんだ......わたし、明日告白されるかもしれないんだ。
それはなんだかとても途方がないことのように思えた。