「はー」
「どうしたのそんな大きなため息吐いて。また妹ちゃん?」
「そうなの。今日の朝も口聞いてくれなくてさー。どうしたらいいかな?」
「反抗期って奴だろうし。どうしようもないでしょ」
「けど中学からずっとこんな調子だし。反抗期だったら長すぎるよー」
「あんたが全くといっていいほど反抗期無かったから、その分が妹ちゃんに行ってるんじゃない?」
「えー。わたしだって反抗期あったよ? 中学校の頃は、家事とかするの面倒くさいなぁとか思ってたし」
「あんた本当にいい子すぎるよ......えらいえらい」
そう言って友香ちゃんはわたしの頭を撫でてくれた。
友香ちゃんは中学校からの文芸部仲間だ。明るくて活発な彼女は、大人しくて友達もほとんどいない私にとって、唯一といってもいいくらいの親友だ。そして、そんな彼女にれんの相談をすることがHR前の日課になっている。
「ありがとう。けどわたし別にえらくないよ」
「愛はえらいよ。だって小学校の頃はずっと妹ちゃんの面倒見てたんでしょ? それで中学から急に妹ちゃんに邪険にされても悩むばっかで怒ったりとか全然しないし」
「面倒見てたっていうか、ただ単にいつでも引っ付いてくるれんが可愛くて仕方がなかっただけだし」
「名前に違わず愛が深いねぇ」
「それも空回り気味だけどね......」
「愛が空回りしているっていうより、むしろ空回りしてるのは......まあ私としては、おっとりしていて優しい姉と、その姉にツンツンするクール系で才色兼備な妹ってカップリングは非常にアリだと思うけどね? 普段はツンツンしている弟の方が誘い受けで、穏やかな兄はヘタレ攻めかと思わせて、ベッドの上では本性を現して......BL妄想が捗って仕方がない!」
急に早口で捲し立てる友香ちゃんに、周囲の視線が集まる。わたしは慌てて彼女を制止する。
「わかったから声抑えて......」
明るくて優しい友香ちゃんの唯一の欠点、それは重度の腐女子だということ。彼女は性格だけでなく容姿も整っているから、頻繁に告白されている。けれど、「男同士の恋愛以外は興味が無い」と言ってすべからく断っている、らしい。本人は自分の話をあまりしたがらないからあくまでも噂で聞いた話だけど。折角美人なのに勿体無いって、クラスの人が口にするのも、噂と一緒によく耳にする。
けれどわたしは、自分の趣味に一直線な彼女は素敵だと思う。たまに話している言葉の意味がよく分からなかったり、急に声が大きくなったりするけど、そんなところもおもしろくて好ましいと思う。
「おっと失礼。まあこれは色んな兄弟もののBLを読み漁ってきた私の勘だけど、妹ちゃんも、ちょっと素直になれないだけで、心の中では愛のことが大好きなままだと思うよ」
「ありがとう。そうだといいんだけど......」
そんな友香ちゃんの言葉に、わたしは力無く笑った。それと同時にチャイムが鳴って、彼女は手をひらひらと振って自分の席へと戻っていった。