次の日、ローレンス学園に登校する私は決意に満ちていた。
アリスと過ごして人間社会のことを学んだところで、今度こそ明蓮を笑顔にするのだ!
昨日入手した猫のぬいぐるみを鞄につけて、意気揚々と教室の扉を開けた。
「おは……何それ可愛い!」
教室に入るや否や、オリンピックが即座に反応する。やはりこのアイテムは女子に好まれるようだ。他のクラスメイト達も集まってくる。
「ああ、これは昨日ゲームセンターで入手したのだ。激しい戦いだった」
昨日のクレーンとの戦いを思い出し、感慨に
「激しい戦いって……クレーンゲームに夢中になると散財するわよ」
明蓮が呆れたように言うが、この口ぶりは同じ経験をしているに違いない。やはり昨日の経験は無駄ではなかったな。
「えー、ゲーセンに行ってたの? 私も行きたかったなあ」
オリンピックが残念そうに言うが、お前達は高天原で遊んでいただろう。
「オリンピックは明蓮とネットゲームをしていたのではないのか?」
「そうだけど……」
私の指摘に、歯切れの悪い返事をする。何かあったのだろうか?
「ゲームセンターには一人で行ったの?」
「いや、アリスと二人で行ったのだ」
会話を遮るように投げかけられた明蓮の質問に答えると、クラス中から「仲良いねー」という声が上がる。オリンピックが驚いたように「え、教えてくれなかった!」と言っているが、アリスは昨日オリンピックに話さなかったのか。
「そういえば今日はアリスちゃんどうしてるの? あんまり何度も来られると授業が出来なくて困るのよね」
うむ。授業を邪魔していたのは問題だ。その件についてもちゃんと言い聞かせておいたぞ。「じゃあまた遊んで!」と言われたので今後も定期的に相手しないといけなくなったが。
「今日は自分の家で大人しくしているそうだ」
私の言葉に、安堵する者もいれば残念そうな顔をする者もいた。
その後は何事もなく授業が終わり、私は明蓮に近づいていく。今日こそは彼女と共に過ごすのだ!
「明蓮、今日はどうするのだ? 勉強か?」
「その前に生徒会の仕事。もうすぐ修学旅行があるから、その準備ね」
「修学旅行というのは、一学年まとまってどこかに旅行するものだろう? なぜ生徒会が準備するのだ」
生徒会は全校の生徒をまとめる組織だ。無関係ではないとはいえ、学年ごとの行事は教師が担当するべきではないのか。
「もちろん担当は学年主任よ。生徒会役員はしおりを
参加生徒全員に配る冊子を手作りするらしい。それは確かに人手が要るだろう。生徒達にやらせればいいと思うが、人数が多すぎても逆に上手くいかないということもある。
「よし、私も手伝おう」
「そうね……じゃあお願いする」
私の提案を明蓮は思ったより簡単に受け入れた。以前の態度を考えると一度は拒否されるかと思ったのだが。これは良い傾向だ。ぬいぐるみのおかげだろうか?
「会議室でやるから、ついてきて」
そして私は明蓮に案内されて生徒会役員が集まる会議室に向かうのだった。
「おおっ、君があの河伯君か!」
会議室に入り、明蓮が説明するとすぐに一人の男子生徒が私に話しかけてきた。
「生徒会長の
明蓮に紹介され、軽く会釈をする。生徒会長は全校生徒のリーダーであるだけあって、声に張りがあって堂々とした振る舞いだ。見た目は日本人らしく黒髪に象牙の肌なので、顔が整っているというぐらいの印象しかないが。
「噂は聞いています、僕は会計係の
生徒会長と同じ三年生の男子である会計係が自己紹介をしてきた。やはり外見の違いはあまり分からない。生徒会長と違うところは細身で眼鏡をしているというぐらいだろうか?
「河伯君の事は学園中で噂なのよ! あ、私は書記の
一体どんな噂なのだろうか。御前崎は肩ぐらいまでの黒髪が
会議室にはこの三人しかいなかった。他の役員、つまり各部の部長達はこういう手伝いには参加しないらしい。2年の学年主任はしおりの元になる紙束を置いて他の仕事をしに行ったという。
「先生は忙しいからね、こういう雑用は俺達生徒会がやるんだ。手伝ってくれて助かるよ」
柏谷がそう言って、しおりの綴じ方を説明した。
「分かった。ではすぐに終わらせてしまおう」
どういうものを作るのかは把握した。すぐに取りかかろうとすると、明蓮が私の腕をつついて小声で話しかけてくる。
「あんまり目立つことはやらないでね」
神通力は使うなと言いたいのだろう。さすがに私もそれぐらいはわきまえているぞ。
軽く頷くと、しおりを綴じる作業に入った。
「すっごーい……」
御前崎が呆然とした表情で呟く。明蓮が小声で「だから目立つなって言ったでしょ!」と責めてきた。何故だ?
「いやー、こんなに速く正確に動く人間は見たことがないよ、まるでロボットのようだ」
驚いた表情で語る柏谷の言葉でなんとなく分かった。どうやら私は速く動きすぎたらしい。
「本当に助かりました! また来てくださいね」
石橋は特に気にしていない様子で、感謝の言葉を伝えてくる。またしても失敗してしまったようだが、とりあえず生徒会の仕事は終わりだな。
「明蓮はこれから勉強だろう? 手伝おう」
「え、あ、うん」
何故か動揺した様子の明蓮。うーむ、今の仕事でまた
「あら、いいわねー」
御前崎が笑みを浮かべながら明蓮に声をかける。
「九頭竜坂君にもいい相手が出来て良かったよ」
柏谷が腕を組み、うんうんと頷きながら感慨深げに言った。
「……他の女子に気を付けてくださいね。特に下級生には注意してください」
石橋が私に忠告してくる。何か危険なことが起こるのだろうか?
「ちょっと、変なこと言わないでよ!」
明蓮はそんな生徒会役員達に声を荒げ、私の腕を掴んで会議室から出ていく。背後から笑い声が聞こえるので、彼女の態度に気を悪くしてはいないようだ。きっといつもこんな感じなのだろう。
「……じゃあ、分からないところとか質問するね」
少し歩いた後で、明蓮が私にそう言った。私を頼りにしてくれるようだ。ああ、良かった。