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アリスの相談

「アリスちゃーん!」


 授業が終わるや否や、オリンピックがやってきた。明蓮を待つために入り口近くで待っていたのですぐに見つかったようだ。


「私もアリスちゃん達と遊びたいよー。河伯君ばっかりズルい!」


 ズルいと言われてもな。酒吞と玉藻が不思議そうな顔をこちらに向けてくる。


「なんで人間の娘っ子が遊びたがってんだぁ?」


「マレビトと遊びたがるなんて、変わった娘さんね」


 見たことの無い大人の男女がいて驚いた顔をしたオリンピックだったが、すぐに二柱に向かって言い放つ。


「河伯君は一緒にいるじゃないですか!」


 これは不味い。彼女の言葉に二柱は顔を見合わせ、今度はこちらに顔を向けてきた。無言だが「どういうことなのか」と表情で聞いてくる。


 するとアリスが声を上げた。


「あっ、明蓮お姉ちゃーん! こっちこっち!」


 その声で全員が一斉にアリスの見ている方に顔を向けた。注目された明蓮は一瞬とても嫌そうな顔をしたが、どうやらアリスがテレパシーで何か伝えたらしく、そのまま大人しくこちらにやってきた。


「五輪お姉ちゃん、ちょっとここで待ってて! みんなにお願いしてみるから」


 続けざまにオリンピックへと声をかける。声をかけられた彼女は「ほんと!?」と嬉しそうな顔をしてその場にとどまり、明蓮も含めた我々六名はアリスに促されるまま少し離れた場所へ移動する。


「あのね、もうここまで来たら隠し通すのは無理だと思うんだ」


 まあそうだろうな。アリスの言葉に察しの良い妖怪二柱は状況を理解した。明蓮が暗い顔をするが、アリスが言葉を続ける。


「五輪お姉ちゃんはマレビトと仲良くしたがってるんだよ。明蓮お姉ちゃんの秘密を知っても怖がったりしないよ」


 明蓮が能力を秘密にしているのは、知られると人間社会から爪はじきにされるからだ。確かにオリンピックなら彼女を邪険に扱うことはないだろう。逆に仕事に連れていけと明蓮に付きまとうに違いない。それが明蓮にとって喜ばしいことなのかは疑問が残るところだが。


 ところでアリスの表情がさっきからやけに生き生きとしているのは気のせいだろうか? 心なしか息が荒いような気もする。


「三角関け……じゃなかった、みんなで一緒に行ったら楽しいよ!」


 何か言いかけたが、彼女なりの目論見もあるのかもしれないな。忘れていたがこいつは危険度の高い強力なマレビトだった。


 とはいえ、ここまでマレビトだらけな状況で明蓮の秘密を隠し通すのは難しいのも事実。オリンピックはアリスと同居し天照大神とゲームで遊んでいる。先ほどの会話から酒吞と玉藻がマレビトであることはすぐに気付いただろうし、私の正体を隠すのも限界がある。


 最悪の場合、記憶を操作してしまえばいいのだが、それはなるべくやりたくない。出来れば明蓮が不利益を被らない形でオリンピックを納得させたいところだ。


「普通の人間に理解者がいた方が何かとやりやすいんじゃない?」


 天照大神が明蓮をさとす。オリンピックのゲーム仲間でもあり、アリスとも仲が良い彼女は当然ながらオリンピックの肩を持っているが、言っている内容は正論だ。


 後ろ足で首の後ろをいていなければ感心したところである。


「最悪の場合は私が彼女の記憶を消そう。それなら今教えても大丈夫だろう?」


 渋い顔をする明蓮に私が最後の後押しをした。


「……分かった。木下さんに全てを話しましょう」


 ついに、明蓮はオリンピックに秘密を明かすことに同意したのだった。




「かっ、河伯君もマレビトだったのー!?」


 何故そっちに食いつく。しかも目がキラキラと輝いている。どう見ても歓喜の表情だ。どれだけマレビトが好きなんだ。


「ああ。転入した理由は前に語った通り、明蓮に興味があったからだ」


「……そうなんだー」


 なんだその不服そうな顔は。そしてアリスが妙にニヤニヤしているのが気になる。


「それで、茨木童子を探しにスピカまで行くのね? 木下さんも連れていくの?」


「行きたいであります副会長殿っ!!」


 明蓮の言葉に何故か直立不動の姿勢を取り、手を挙げて意思表示をするオリンピック。


「何その口調。あと副会長って呼ばれるのも面倒くさいから明蓮って呼んでちょうだい」


「分かりました明蓮殿! 自分も五輪と呼んで欲しいであります!」


 どうやら恭順きょうじゅんの意思を示す口調らしい。鬱陶うっとうしいから普通の口調に戻って貰えないだろうか。




「魔導書アカラント=タルガリアよ、常世の国へ我を導け」


「おおー! かっこいい!」


 さっきからオリンピックははしゃいでばかりだ。だが、この言葉に明蓮が意外な反応を示した。頬を赤らめつつオリンピックに優しい顔を向けたのだ! 惜しい、笑顔まではいかなかった。


「ふふふ、だから心配はいらないって言ったでしょ!」


 得意げなアリスの頭を、明蓮が撫でた。


「……何よ、じっと見て。アンタにも感謝してるわよ」


 明蓮が私の顔を見ると、すぐにそっぽを向いてしまった。何故だ、扱いに差を感じる。私も貢献していると思うのだが。


「にひひー、河伯お兄ちゃんには私がいい子いい子してあげる」


 犬に乗ったアリスが私に寄ってきた。


「狼!」


「何も言ってないだろう」


 こうして我々は賑やかに幽世へと渡るのだった。


「よおっし、待っとれよ茨木の!」


「賑やかなのも悪くないわねぇ」


 妖怪達もやる気に満ちている。さて、問題の茨木童子はどこで何をしているのだろうか……ん?


 なんと私の能力であっさりと対象の現状が分かってしまった。というより現地ではなかなか有名なようだ。


 茨木童子は、大量の女性に囲まれながら現地でアイドル活動をしていた。


「これは伝えるべきだろうか……」


「ん? なんか言いんさったか?」


「いや、何でもない」


 まあ、見つけた後のことは当事者達に任せておけばいいさ。


 私は感動しきりのオリンピックを落とさないように気を付けながら幽世の宇宙へと飛び立つのだった。

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