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明蓮の悩み2

「この前、マレビトの依頼が多いって言ったでしょ」


 黄河に目を向けたまま、明蓮が言葉を紡ぐ。


「ああ、それで勉強の時間が取れないと言っていたな」


「最近になって、急に凄いマレビトが依頼をしてくるようになったのよ、それも三柱みはしら一気に」


 凄いマレビトか……人間が言う『凄い』はどんなものを指すのだろうか。有名な神なのだろうか?


「アマテラスって知ってる?」


 知らないはずがない。なるほど、確かにあらゆる意味で凄い客が来たものだ。太陽そのものを司る神が星間旅行とは、天岩戸どころの騒ぎじゃないな。


「当然知っている。天照大神あまてらすおおかみが来て、三柱ということは他には素戔嗚尊すさのおのみこと月読尊つくよみのみことか」


 この三柱は三貴子さんきし(みはしらのうずのみこ)とも呼ばれる、日本神話の最高位神だ。姉弟で旅行するとは仲が良いな。


「ううん、違う。あとの二柱ふたはしら酒呑童子しゅてんどうじ金毛白面九尾こんもうはくめんきゅうび妖狐ようこよ」


 なんというか、軒並み凄い顔ぶれだな。どちらも日本三大妖怪と称される大妖怪の一柱ひとはしらだ。のこりは大天狗おおてんぐだが、あれはうらみが強すぎて幽世から出られない。


「確かに凄いマレビト達だな」


「黄河の神も大概だと思うけど。まあそれはそれとして、アイツらには気遣いってもんが無くてね。ところかまわず呼びつけてきて、こちらの都合は一切気にしないんだ。アマテラスはともかく、妖怪は怖くてさ」


「私が話をつけよう」


 明蓮が困っているなら、それを私が伝えてやろう。彼女に危害を加えようとするなら、私が守る。それぐらいの力は持ち合わせているつもりだ。


「ありがとう。でも、アイツらも貴重な収入源だから無下には出来ないんだよね」


 ふむ、それもそうか。ならばまずはあちらの事情を知る必要があるな。


「そいつらはいつもどこに旅行しているのだ? なぜ明蓮に依頼するのか語ってはいないか?」


「天照はシリウスに。あまり遠くに行く気はないみたい。酒吞はスピカ。九尾はアルビレオ。あちらの事情は興味もないし聞いてない」


 恒星に降り立つことはなくその惑星に行くのだが、惑星名では人間に分かりにくいので彼等が名付けた恒星の名で場所を示すのが通例だ。惑星の名も発音しにくいものが多い。シーザイアのように発見されていない星は現地の呼び名を使っているが。


「そうか。まずはその三柱それぞれの理由を探ってみよう。最近になって急に依頼をしてきたということは、何かそうなるきっかけがあるはずだ」


「うん、ちょっと聞いてみる」


「私もついて行こう。相手が拒否しなければ」


「そっか、マレビト同士は別に険悪なわけじゃないものね。アリスもアンタに懐いてたし」


 懐いていたかは知らないが、少なくとも敵対はしていないな。太陽神や妖怪達が私をどう思うかは分からないが、最初から敵意を向ける必要はなかろう。


 話が終わると、現世に戻ることにするのだった。


◇◆◇


「あら? さっきまで明蓮がいなかった?」


 路地に誰もいないのを確認した五輪とアリスが顔を見合わせていると、急に女の声が話しかけてくる。


「誰?」


 五輪が振り返るが、そこに彼女が想像していた大人の女性は立っていない。その代わりに、人間の街には少々不自然な獣が四本の足で立っている。五輪は大きい犬だと思った。


「ワンちゃんが話しかけてきたの?」


「誰がワンちゃんよ! 私は天照大神、おそれ多くもこの日本の最高神よ、敬いなさい!」


「オオカミさんだ! うわーモフモフ!」


「わっ、ちょ、やめなさい! ああっ、尻尾の付け根はダメええ!」


 喋る狼に駆け寄り、その身体を撫でまわすアリス。


「ええんかー? ここがええのんか~?」


 何やら変な口調になってにやけ顔で撫でている。どうやら動物もイケるらしい。


「あのー、その最高神さまがどうしてこんなところに? 副会長のことを知ってるんですか?」


 アリスに撫でまわされて身をくねらせる天照に、五輪が質問を投げかけた。


「それは……ちょっと遊びに行きたくて……あうぅん!」


「遊び?」


 なんだかよく分からないが、怖い相手ではなさそうだと思う五輪だった。

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