次の日、私はズボンの制服を着て登校した。昨日は明蓮を不機嫌にさせてしまったからな。それにしてもずいぶんと窮屈な服だ。
「おはよう河伯君! あっ、ズボン履いてる!」
校門の前でオリンピックとアリスに会う。幼い少女を学園に連れ込む口実として私の親戚が遊びに来たということにしているので、私が一緒にいなくてはならないのだ。
「男の子だったの? 童顔の男の子……いい!」
アリスがまたよく分からないことで興奮しているが、自分の姿を鏡で見てみろと言いたくなるところである。
「学園を案内すると言っても私は昨日来たばかりだからな。オリンピックが説明してくれ」
オリンピックがアリスに学園を紹介しているのを聞けば、私も人間社会のルールを理解できるという仕組みだ。どうせアリスの訪問が避けられないのなら、この状況を利用してやろう。
「じゃあまずは2年C組に行こう。私達のクラスだよ!」
オリンピックは1階にある様々な施設を全て無視して2階にある我々のクラスにアリスを連れていく。まだ授業までは時間があるのだが、何をするつもりだろうか。昨夜は二人で遅くまで話をしていたようだが。
「お兄ちゃん、おててつないで!」
アリスが手を差し出してくる。敵意は感じない。むしろ非常に好意的な感情が伝わってくるのは何故だろうか?
親戚という設定的にも都合がいいので求められるままに手を繋ぎ、前を行くオリンピックを追いかけた。
「ふひひ……ショタっ子」
アリスが呟いた言葉を検索してみたが、外見的に年齢が上の相手に使う言葉ではないはずである。本当によく分からない神だ。
「きゃー、かわいい!! どうしたの?」
クラスに入ると、アリスを見たクラスの女子が騒がしく近寄ってきた。
「親戚のアリスが遊びに来たいというので連れてきたのだ」
私が説明をするとクラスメイト達が何やら感嘆の声を上げ、アリスに次々と質問をしていく。変なことを言い出したりはしないかとその様子を監視していると、明蓮が私の腕をつついてきた。
「ねえ、親戚って……もしかしてその子も?」
私の正体を知る彼女はアリスもマレビトなのだとすぐに理解したようだ。当然のことだが。自分の能力を秘密にしている明蓮にはまた迷惑な話だろうが、文句はオリンピックに言ってもらいたい。
無言で頷くと、案の定少し怒ったような顔をする。人前なので怒り出すわけにもいかない彼女は、私の耳元に口を寄せて小声で抗議の言葉を述べた。
「どういうつもり? 学園をマレビトだらけにしたいの?」
「アリスに近づいたのはオリンピックだ。私は彼女をマレビトから守るために同行したにすぎない」
「オリ……木下さんか。あの子はそういうの好きだからね……そういうことならしょうがないわね。アンタが守ってくれたんだ、ありがとう」
オリンピックの伝承巡りは明蓮もよく知っているらしく、すぐに状況を理解してくれた。誤解を受けずに済んで助かる。
「あーっ! お兄ちゃんが女の人と仲良くしてる!」
すると、急にアリスが大声を上げた。私と明蓮が顔を寄せ合って小声で話しているのに気付いたようだ。明蓮と仲良くしたい気持ちは大いにあるが、今回は誤解である。クラス中の視線が一斉に集まり、皆がなんとも表現しがたい笑みを浮かべている。
「え、ちょっ、そんなんじゃないわよ!」
明蓮も頬を赤くして反論した。その気のない彼女には本当に迷惑なことなのだろう、顔が紅潮するほど怒りを露わにしている。私は彼女の笑顔がみたいのだが、怒らせてばかりだな。
「お兄ちゃんは五輪お姉ちゃんと付き合ってるんじゃないの!?」
アリスは更なる誤解を振りまく。昨日二人の関係をオリンピックから聞いたのではないのか? 一体何を話していたのだ。
「え? いや~、まだそこまでは行ってないよ~。河伯君は副会長のことが好きだし!」
オリンピックは頬をほころばせながら否定をするが、本当に何を話していたのだろうか。そしてそこまでとはどこまでだ?
「えっ、じゃあこれって……恋の三角関係!? ああっ……!」
そしてアリスは天を見上げて恍惚の表情を浮かべた。
「あらー、河伯君ってかわいい顔してプレイボーイ?」
「明蓮お姉さまと仲良く内緒話なんて……ぐぎぎ」
「むしろ河伯に萌え」
生徒達が好き勝手に喋り始め、クラスは大混乱のまま授業の時間を迎えるのだった。