「ね、見てこれ」
日曜日の午後。彼女が嬉しそうな声でそう言って、僕に一枚の絵を見せてくれた。
あれから5年が経った今でも、彼女は相変わらず大きな瞳を輝かせて、僕の隣で笑っている。
「これは……」
「ええ、高校生の時、いつも二人で帰った道」
彼女が見せてくれたのは、彼女自身が描いた絵だったが、その絵を見て驚いた。
なぜならそこには、二人並んで歩いた高校時代の帰路と、二人の姿、それから真っ赤な夕日が、山の端から顔を覗かせていたからだ。
父親の火災事故以来、「赤色」が嫌いだと言って今まで青を基調とした絵しか描いてこなかった彼女が、美しい橙色の世界をキャンバスに描いたこと。
それは、彼女が着実に前へと進んでいる証だった。
「君の声が、聞こえてきそうだね」
僕がそう感想を述べると、彼女が「でしょ」と可愛らしい声で誇らしげに胸を張った。
僕はこれからも、花のように笑う彼女を、隣でずっと見ていくのだろう。
未来を想像すると、僕は胸にあたたかな陽だまりができていくような心地がした。
もう二度と、この手を離すことのないように。
この笑顔を失うことがないように。
僕は彼女と共に歩む道を、これからも選び続ける。
毎日、「ただいま」と「おかえり」の声を聞きながら。
『君の声が聞こえない』終