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13 安藤恭太 7



「くう〜空気最高!」


 約3時間も椅子に座っているだけだった僕は、東京駅に着いた途端に新しい酸素が全身を巡るのを感じて大きく伸びをした。とはいえさすが東京、駅構内を飛び交う人の肩にすぐにぶつかりそうになって身を縮めた。まったく、これじゃ新鮮な空気を堪能することもできやしない。


 渋々さっさとホームを降り、在来線のエリアへと向かう。なんやねんこの人の多さ! 乗り換えしたいだけなのに進まへんやんっ。


 なんとか人波をくぐり抜け、在来線のホームまで降り立った僕はほっと一息吐く。ここにくるだけで相当の体力を要した。電車に乗ったら休憩しよう——なんて計画を立てたのも虚しく、満員電車で約30分、僕は体力を消耗し続けた。


「ぷはっ!」


「どうしたんだ恭太。息継ぎの練習でもしていたのかい」


 待ち合わせの三鷹駅までたどり着くと、改札を抜けたところに見知った顔を見つけたところで、鮮やかな皮肉の言葉を頂戴した。


「学、今はつっこむ気が起きひんから、容赦してくれへん?」


 約二週間ぶりに会った学は、都会の風潮に合わせたのか、普段の甚平姿からは想像もつかないような、いたって普通の装いをして僕の前に現れた。黒のダウンジャケットがまっとうなお洒落男子を演出しており、彼がそんな服を着こなしていることに人知れずダメージを受ける。


「おや、気心の知れた友人に気を遣うほど、わいは心が広くないのさ」


「はいはい。期待した僕がバカやった」


 手をひらひらと振り、彼の皮肉をかわす。これ以上やつの言い分に付き合ってはいられない。

 学と僕が言い合っているうちに、駅の入り口から西條さんと三輪さんが現れた。三輪さんの手にはビニール袋が提げられている、二人は僕たちを見つけると駆け寄って来てくれた。


「二人ともお待たせ。待たせてごめんね」


「ううん、待ってへん!」


「恭太は都会の電車で体力を擦り減らしただけだよ」


「おい、余計なこと言わんでええって」


「ふふ、相変わらずね」


 三輪さんが口に手を当てて笑う。相変わらず、という反応になんだか恥ずかしくなって僕は学から目を逸らした。


「それじゃあ早速行きましょう。カナの元へ」


 三輪さんが西條さんの顔を見て、西條さんは大きく頷いた。そんな二人の間に流れる厳かな空気を読んで、僕と学は真顔で賛成の意を示した。


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