三輪さんが、深く頭を下げる。
たった一人、西條さんの秘密を知っていた三輪さんは、この半年間西條さんが傷つかないように、相当の苦労を要しただろう。西條姉妹の友達に必死に頭を下げている彼女の姿が目に浮かぶ。僕だったら、そこまでのことができただろうか。もしよくないタイミングで西條さんが真実に気がつけば、余計に彼女を混乱させ、破滅させることになる。三輪さんも、それだけは避けたかったはずだ。
「守りたかった……ナエも、カナも。二人のことが大好きだったから、もう二度と、ナエが傷つくところを見たくなかった。それが結果的にあたしの自己満足に終わるとしても。でもナエは、あたしのこと許せないよね」
三輪さんが自分の胸の前で洋服の襟をぎゅっと握る。大切にしすぎて壊してしまいそうな勢いで指先に力を込める。彼女の拳が次第に真っ赤に染まっていく。三輪さんの心の葛藤が、痛いくらいに伝わってきて、僕まで身につまされた気分だった。
「そんなこと、ない」
「え?」
これまで三輪さんの話を、泣きそうな顔で聞いていた西條さんが口を開く。
「許せないなんて、そんなはずない。私がどれだけつばきに感謝してるか」
分かる? と三輪さんの目を見つめて問いかける。今度は三輪さんの目尻に涙が溜まっていた。
「ありがとうつばき。私のこと、そばで守ってくれて。正直、まだ全然現実を受け入れられない……。奏のことを想うと悲しくてたまらない。だけど、転びそうだった私を必死に支えてくれたのはつばきや、ここにいる安藤くんや御手洗くん、皆のおかげで私
はなんとか今自分を保ててるんだ。だからさ、顔を上げてよ。ねえ、つばき」
もういいよ、と三輪さんを見つめる西條さんの瞳がそう語っている。
ああ、この人は紛れもなく西條さんや。
僕が知っている西條さんは、姉に扮した妹だったけれど、親友を真っ直ぐに見つめるそのひたむきさは変わらない。
僕が恋した彼女そのものだった。
「皆、助けてくれて本当にありがとう」
西條さんが朗らかに笑う。僕はずっと、この笑顔を見たかった。
恋人がほしいと躍起になる西條さんも、行方不明になった双子の片割れのことを思って切なげな表情を浮かべる西條さんも、全部彼女であることには変わりないのだけれど。
ただ彼女の笑顔を見たい。好きになったらもう、彼女の笑った顔を見ていられるだけでこんなにも幸せなもんなんやな。
「あーお腹いっぱい! あのさ、最後に一つだけお願いがあるんだけど」
西條さんが再び三輪さんの方を見る。三輪さんはもう涙を流してなどいない。真っ赤に腫らした瞳をゴシゴシと袖で擦った。
「なに?」
「あのね——」