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10 西條奏 5



 それから私たちは30分ほど歩き、鴨川をかなり北上していた。出町柳から二俣に分かれる鴨川は、東側が「高野川」に、西側は「賀茂川」に名前が変わる。私たちは西側の賀茂川沿いをずいぶんと歩いていた。しかし、イルミネーションらしい光はまだ見られない。京都府立植物園を通り過ぎ、上賀茂神社のあたりまでたどり着いたとき、ようやく私は「何かがおかしい」ということに気がついた。

 一体どこまで歩くの……?

 このまま歩き続けても山にぶち当たる。川は続いていくが、さすがに山間の道でイルミネーションをやっているとは思えない。


「ユカイさん、イルミネーション、まだでしょうか?」


 気になって彼に問いかけてみた。ひょっとしたらユカイが勘違いしているのかもしれない。やはり鴨川ではなく、京都府立植物園のことだったんだろうか。あそこなら毎年イルミネーションをしているし有名だ。


「……」


 歩き疲れたのか、ユカイは押し黙ったまま何も答えない。私の方もひたすら歩いたせいでそろそろ足が痛くなってきた。ちょっと休憩でも——と彼に提案したそのとき。


「ん……!」


 な、なに!?

 黙って歩いていたユカイの手が、さっと私の首の後ろに回ったかと思うと、そのまま口元に移動する。口に、布のような物を当てられて私はとっさにむぐぐぐと声を上げようとした。しかし思いのほか強い力で押さえつけられて思うように声が出ない。

 何が起こっているの!?

 恐怖で目尻から涙が溢れる。怖い。意味が分からない。ユカイの顔は見えない。でも考えるまでもない、ユカイは私を拘束しようとしている——。

 全身の毛がさーっと逆立ち、震えが止まらない。

 しかし、次第に意識が遠のいてそんな恐怖さえも感じられなくなって。

 助けて、×××———。

 声にならない悲鳴が、闇の中に沈んだ。


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