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08 西條奏 3


 ユカイにメッセージを送った次の日、ちょっと寝坊して昼前に目が覚めると早速ユカイからの返信が来ていることに気づいた。


『ありがとう! いつがいい?』


 いくらか口調がラフになっている。しかし悪い気はしない。ちょっとずつ距離を詰めようとしてくれているのが分かり、好感が持てた。


『もし良かったらですけど、24日はどうですか? 私は予定がないので(笑)』


 あまり重くなりすぎないように、あくまで「くりぼっちを回避したいぜ!」という軽いノリを演出する。


『いいよ〜クリスマスイブだね。俺も予定ないから喜んで!(笑)』


 スマホの向こうで、ユカイが笑っている顔が浮かぶ。年上だけど子犬みたいに可愛らしいテンションで。

 案外簡単にクリスマスイブのデートを了承してくれて肩透かしをくらった気分だ。

 その後私はユカイとデートの内容、待ち合わせの場所、時間を決めた。初対面のデートだと普段はご飯に行くだけで終わることが多いのだが、せっかくクリスマスだしイルミネーションでも見に行こうということになった。


『どこのイルミネーションを見に行きますか?』


『今年は鴨川でやるらしいから、そこに行こう』


『そうなんですか? 了解です』


 京都に三年半住んでいるが、鴨川でイルミネーションをやっているのなんて聞いたことがない。でも私よりも京都暦が長いであろう彼が言うのだから、穴場スポットがあるんだろう。


『じゃあ、24日の17時に出町柳駅前でいいかな』


『場所、こちらに合わせていただいてすみません』


『当たり前だよ。楽しみにしてます』


 彼とのやりとりが終わり、私はスマホの画面を閉じた。

 あれ、そういえば私、最寄駅が出町柳駅だって伝えてあったっけ。

 プロフィールに大学名を書いていたかもしれない。まあ何でもいいか。待ち合わせ場所が自宅近くだとありがたい。

 私はつばきに、「ユカイとクリスマス過ごすことになったよ〜くりぼっち回避(笑)」と送っておいた。つばきから、「グッジョブ」とスタンプが送られてくる。つばきの方は、今度はドタキャンなんかされずに神谷くんと予定通りクリスマスを過ごせるだろうか。親友がむくれているとことを見たくないから、頼んだよ神谷くん。


 先ほど起きたばかりのベッドにぼふっと倒れ込み、目を閉じる。大学四回生、もうほとんどやることもなく卒業を待つばかり……あんなに寝たのに冬って異常に眠い。やることないし、もう少し寝るか……おやすみなさい。


 ……

 ……

 ………。


 て、違う!

 今日は確か、社会学研究室の院生たちが研究発表するから出席しないといけなかった!

 時計を見ると午後1時過ぎを回っている。すぐに跳ね起きたと思ったのになんと一時間も眠りこけていた。


「発表って1時からよね……」


 誰にともなく呟き、はあ、とため息をつく。

院生たちの発表を聞くのに出席点などがあるわけではないが、先輩たちの研究発表をぶっちするなんて後ろめたい。私の所属する文学部では卒業後就職する人が大半だが中には院進する人もいる。そういう人たちにとって、今回の発表は今後の研究の道筋と言っていい。いくら私が就職組だからと言って、出席しないのはあまりにも不良だ。


 一か八か、途中参加できる可能性にかけて急いで支度をし家を飛び出した。自宅から大学まではすぐなので、起きてから30分で文学部校舎にたどり着いた。入り口のところで今日の研究発表の出席者を調べているらしく、私は「西條奏です」と名乗った。


「西條奏さん。あなた、確か……」


 なぜか事務員は首を傾げている。私、事務員さんに何か覚えられるようなことでもしたっけ。まあいいや。今はそれどころじゃない。早くしないと研究発表が終わってしまう。


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