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08 西條奏 2



「クリスマス……」


 なんと。

 そうだ、私はまだ11月の気分でいるが、現在12月17日。ちょうど来週の今日が24日ときた。

 毎年聖なる夜には華苗と一緒に家に引きこもり、カップルたちのデートを盛り上げる夜景の灯火となっているが、今年は華苗がいない。二人なら彼無しのクリスマスも十分楽しめたが、一人きりで家に閉じこもっているなんて、耐えられるだろうか?


「つばきはクリスマス、神谷くんと過ごすの?」


「うん、今のところは」


「そっか。ていうか、神谷くんとあの後どうなったの」


「変わらないよ。相変わらずデートは少ないし返信も遅い。来週のクリスマスのデートが超久しぶり」


「なるほどねえ」


 つばきは先月神谷くんとの関係が上手くいっていないと悩んでいたがまだ続いているらしい。


「クリスマスで勝負をかけようと思って」


「マジで。クリスマス・クライシスじゃん」


「よそのカップルの危機を面白おかしく表現せんでいい!」


「ごめんごめん」


 頬を膨らませてむくれるつばきだが、内心不安だということは分かる。自分に夢中だった恋人がどんどん離れていくのを感じたら、私だって同じ気持ちになるだろう。


「カナもデートしてくればいいじゃない」


「デートって、このユカイと?」


「そう。案外ウチの大学にいる人だったりして」


「あり得なくはないね」


 ユカイは24歳と書いているが、社会人なのか学生なのかは書いていない。大学院生なら24歳でも不思議じゃないし、浪人経験があれば同級生だってあり得る。


「どうしようかな〜」


 デートと言っても初対面の人とじゃクリスマスのロマンを感じる余裕はない。それなりに緊張するし、服装や振る舞いに気を遣って疲れることになる。しかし、誰とも予定のないままクリスマスを迎えるのは悲しすぎるし、一歩踏み出さなければ恋人なんて夢のまた夢、というのは間違いない。


「正直言うとさ、あたしゃ不安なワケよ」


「不安って神谷くんとのこと?」


「違う違う。カナが一人でクリスマスを過ごすこと。だって初めてでしょ? 今年はその、ナエだっていないんだし……」


 ナエ、というのは華苗のことだ。つばきはいつになく真剣な表情で私を見つめている。私はつばきに、余計な心配をかけているのだ。私と華苗のことを両方知っているつばきにとって、華苗がいなくなった今の私が頼りなく見えているのだろう。


「確かに華苗がいないクリスマスは初めて。そうか、本当の意味で一人きりのクリスマスを過ごしたことなかったんだ私」


「でしょ? だからアプリの相手、どうせいつか会うのなら予定のないクリスマスでいいじゃない。ま、お相手もクリスマスが空

いてるとは限らないけどっ」


「マッチングアプリしてるぐらいだからさすがに空いてると思うけどな」


「さあて、どうでしょう」


 いたずらっ子の笑みを浮かべるつばき。良かった、つばきが心配そうな表情をしているのに、私は耐えられない。彼女にはいつだって頼れる姉御として笑っていて欲しい。


「分かった。会ってみることにするよ」


「そうこなくっちゃ」


 つばきにアドバイスをされるがままに、私はユカイに返事を送る。


『お誘いありがとうございます。ぜひ一度お会いしてみたいです』


 ちなみに24日はどうですか? と送ろうとしてやめた。向こうにその気があれば、そんなこと焦って送らなくても日にちを聞いてくれるだろう。一度にたくさんメッセージを送りすぎるのはご法度だ。重たい女だと思われてしまう。


「なんか楽しそうじゃない、カナ」


「え、そう?」


 気づかないうちに笑みが零れていたようだ。


「うん。やっぱりクリスマスのデートはいいよね。あたしも頑張ってくるわ」


 楽しんでくる、ではなくて「頑張ってくる」。そこにつばきの神谷くんへの想いの強さが垣間見えて、頑張れと心の中で叫んだ。


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