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07 安藤恭太 2


「え?」


 予想外の発言だった。重い、というのは恋愛用語で相手の愛情が大きすぎて苦しい、ということだろうか。そんなこと考えてもみなかったが、学にはそう映ったらしい。


「そう? あまり思わへんかったけど」


「いやいや、鈍いよ恭太くん。他の女の子と仲良くしないでほしいとか連絡もとっちゃだめだとか要求してくる女の子を、世間では『重い』って言うのさ。だって、浮気心がなくたって、どうしても他の子と連絡しなくちゃいけない場面だってあるだろう? それもいちいち咎められてたら生きづらいじゃないか」


「……そう言われると確かに……」


 いつになく真顔で諭してくる学に、僕は納得せざるをえなかった。自分が例えば同じゼミのメンバーに連絡をとっている場面を思い浮かべる。内容はそうだな、「明日の6時から研究発表の練習だからよろしく!」といったような業務連絡だ。もしそういった連絡すら真奈は嫌だと感じるのなら、確かに学の言う通り「重い」と思ってしまうかもしれない……。

 自分が考えているよりも、ことは重大なのだということをこの時初めて思い至る。


「はあ。そんなことにも気づかなかったなんて、君はやっぱり彼女ができても変わらないな」


 むむ、そんな哀れみの目で見ないでくれよ! 第一、アドバイスだけして実践を積んだことのない学から言われる筋合いはないはずなんだけどな。しかしそれでも彼の言うことはいつも的を射ているため、ぐうの音も出ない。


「僕は一体どうすれば……」


「そんなのわいが知ったこっちゃないよ。まあ、江坂くんに『もうちょっと条件を緩めてほしい』とお願いするか、そもそも他の女子とまったく付き合うななんていう要求は無謀すぎるからやめてほしいと訴えるか。どちらにせよ、喧嘩になる可能性は高いだろうね」


 以上、コメンテーターからの見解でしたと言わんばかりに学は前髪をさっと撫でた。


「どっちもハードル高いな……。この間の様子じゃ、真奈の気持ちに反抗したら一気に嫌われそうな気がする……」


「わいから言わせてもらうと、そんなことで崩れるような関係は遅かれ早かれダメになるのさ」


「うわ、辛辣やなっ」


 今日の学は容赦ない。でも、自分の恋が儚く散って傷心旅行から帰ってきたばかりの身だから仕方ないか。ちょっと学をいじめすぎたかもしれない。これはきっと他人の気もしらずに惚気た僕への制裁なのだ。く……辛いなあ。


「とにかく忠告しておくよ。このままだと君たちの関係は簡単に崩れる。だから恭太の方から何か行動をとるんだな」


「御意……」


 ああ、なんてことに気づいてしまったんだ。しかし有頂天のまま真奈と交際を続ければ必ず破滅がくるという学の言葉には一理ある気がする。早々に問題解決しなければ。よおし、次のデートで真奈に提案してみよう。浮気心がない限りは他の女子との付き合いもOKにしてほしいって。話せばわかるはずだ。うん、大丈夫大丈夫。なんとかなる!


「健闘を祈りまする」


 学はもう、自分の失恋のことなど忘れたように、今までどおり僕に上から助言をする仙人に戻っていた。まあ彼が彼らしくいられることが一番なのだから、今日は大人しく言うことを聞いておくことにしよう。


 はは、僕って友達想いのええやつやなあ。


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