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06 西條奏 6


 私は普段は勇ましい親友が珍しく追い詰められているのだと悟って、頷いておいた。


「カナは最近どう? いい男は見つかりそう?」


「うーん、全然。マッチングアプリは続けてるけど。あ、そういえばさっきマッチングした人どうなったかな」


「なになに、誰かとマッチングしたの?」


「アプリだからね、マッチング自体はすぐにできるの。ほら」


 私は図書館でメッセージを送った「ユカイ」のプロフィールをつばきに見せた。「ほう」と探るような眼差しで彼の写真をじっと見つめるつばき。


「あれ、この人……」


 ユカイの写真を見たつばきが、どういうわけか首を捻る。


「え、知り合いか何か?」


「いや知り合いではないと思う。うーんなんでだろう? 顔は見たことないのに、なんか既視感があるわ」


 つばきは腕組みをしてしばらく何かを思い出そうとしていたみたいだったが、結局「分からん!」と組んでいた腕を解いた。


「それよりメッセージ来てるみたいだけど返さなくていいの?」


「あれ、ほんとだ」


 ちゃんと見ていなかったから気がつかなかった。たしかにユカイから新着メッセージが届いている。つばきの前だしどうしようか迷ったが、今更何も隠すことなんてないなと思い至りユカイからのメッセージを開いた。


『初めまして! メッセージくださって嬉しいです。よろしくお願いします』


 初めましての挨拶だったが、チャラそうな見た目に反して文面はいたって真面目で驚いた。


「ねえ、どんな感じ?」


「普通だよ。挨拶してくれた」


 マッチングアプリを使ったことがないというつばきはユカイからのメッセージに興味津々らしく、こちらに身を乗り出して聞いてきた。しかしもう何度も同じようなやりとりをいろんな男と行っている私は、淡々と「返信ありがとうございます」と返事をしておいた。


「ふーん、意外とあっさりしてるのね」


「最初から飛ばし過ぎたら上手くいかないよ」


「そんなもんか」


 実際、一度目のメッセージで明らかにやりたいだけというのが見えすいた内容を送ってくる人だっている。そういう人には返信をせずにお蔵入りにするだけだが。

 ユカイ氏がどんな人かはまだ分からないが、少なくとも第一声でくだらない誘いをしてくるような人ではないと知ってほっとした。


「進展したら教えてよね」


「上手いこといったらね」


 ほとんどの場合で上手くいかないことが多いのだけれど、新しい出会いに夢くらいは抱いてもいいだろう。

 その後つばきは気分が乗ってきたのかアルコールを頼み、ひたすら神谷くんの愚痴と、それでも好きだという愛を語ってくれた。顔を赤く染めて徐々に酔っ払いになっていくお姉さんに「そっかそっか」と慰めるのが私の役目。なんだかんだで神谷くんと離れたくないんだろうな。神谷くんがもし浮気をしていると知ったら、つばきはどう立ち回るんだろう。できればそんな場面には立ち会いたくない。


 私もつばきの熱に呑まれてお酒を一杯注文する。お酒にはあまり強くないから、宴会をすするとか、よっぽどのことがない限りは飲まない主義なのだけれど、今日ぐらいはつばきに付き合ってあげたいという気持ちだった。

 アルコール度数の強くなさそうなカシスオレンジを飲み、いい感じにほろ酔い気分に浸った。ミートドリアはとっくに食べ終えてしまい、つまみがないのでゴクゴクとお酒を飲んでしまう。甘いお酒なのでなおさら止まらない。


「もう一杯ください」


「カナ〜大丈夫〜?」


 すでにヘロヘロのつばきに心配されたところで笑うしかないのだが、この時の私は「だいじょーぶ」とつばきよりも頼りない口調で手をひらひらと横に振った。

 果たして結果は大丈夫ではなかった。


「あれえ……なんかぐらぐらする」


 ぼわん、ぼわん、と頭がぐらつき始め、やばいかもと本能が察知した。しかしそう感じた頃にはもう時すでに遅し。今度は急激な眠気が襲ってきて、その場につっぷしてしまう。


「カナ!?」


 さすがのつばきもこの時ばかりはハッとした様子で私の名前を呼んだが、薄れゆく意識の中で彼女の声は雲よりも遠かった。


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