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第9話 遭遇せし人造吸血鬼は……

 様子を伺っていた彼女は、複数人と誤認していた事に気づいた。

 ではなぜそう誤認してしまったのか?

 それは――


(ウヴェルテュ-レ!? 数少ない、人造吸血鬼のプロトタイプ……まだ生き残りがいたなんて……)


 人造吸血鬼としては旧型とも言えるウヴェルテュ-レタイプが単独で動いている。

 性別は女性型で、人造吸血鬼共通の水色の髪と赤い瞳をしている。ただし、アハト=ディソナンツ・キーラ足る彼女とは違い、ストレートロングだが。

 ウヴェルテュ-レの彼女は、服装こそ同じ制服を着ているが、おそらく痛いのだろう、動きが少しぎこちなかった。


(プロトタイプとしては有能なんでしょうけれど、ガタが来ているようね? でも、そんな状態の者まで投入しているだなんて……それ程、警戒しているという事?)


 ウヴェルテュ-レは、単独行動が基本ではあるものの、複数個体がいるように偽造できる機能を付与されている。

 何故ウヴェルテュ-レにだけ、こんな機能があるのかは、ディソナンツを選んだ彼女はよく知らない。

 それでも、厄介である事に違いはないと判断した彼女は、どう動くかを考える。


(ウヴェルテュ-レと遭遇した事がないから、戦闘方法含めて不明。となると、逃げの一択なのだけれど……)


 今いる場所は、廃墟とはいえ屋内だ。

 戦い難いのは勿論、逃げるにしても相手の力量が分からない以上、下手に動くわけにはいかない。

 崩壊の危険もあるが、戦闘になったとして増援が来たらこちらに勝ち目はない。

 それに、ここで得られるであろう情報を失う可能性もある。


(対話を試みる? いいえ、相手の性質がわからない以上、得策じゃないわ。ここは、相手が立ち去るか……様子を見ましょう)


 幸か不幸か、ディソナンツタイプは隠密機能に優れている。

 故に、気配を消すのが得意であり……屋内等においては有利なのだ。


(それにしても……随分と慎重に動いているわね? 身体の問題? それとも……?)


 観察していると、ウヴェルテュ-レの彼女は小さく口を動かしながら、おそらくアハト=ディソナンツ・キーラを探しているのだろう……探知モードを稼働させ、周囲を見渡している。

 だが……動きはぎこちなく、それでいてどこか怯えているようにも見えた。


(何を恐れているの? 違和感があるわね……)


 警戒しながら、観察を続けつつ、いつでも逃げられる体勢を整える。


 ――相手であるウヴェルテュ-レは、どう動くのか?


 それ次第で、彼女の運命は変わるのだ……

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