内部は長年の経年劣化もあり、酷く荒れていた。
その中を彼女は慎重に進む。足元には瓦礫や破片も多く、歩きづらいからだ。
(荒れすぎているわね。建物内だから? それとも?)
警戒心をあげると、彼女は調査を再開する。
散らかった書類等、当時の物を拾い上げては内容を確認して行く。
古い言い回しが多い。
(相当昔の書類のようね)
基本的な内容は、社外取引のやりとりや契約書等の類のようだった。そこから現在の状況に至るような情報は見受けられない。
(ここには何もなさそうね……うん?)
ふと、一枚の紙切れに目がとまる。
「これは……殴り書きのメモ?」
古い文字だが、読めなくはない。彼女は警戒しながら拾い上げ中身を読んでみた。そこには……
――地獄が始まる。
――盗まれてしまった。
――アレが流出したのだ。世界が終わる。
――人が壊れる。
――あぁ、神よ……
「盗まれた……流出した? つまり、このウィルスは……人為的なもの?」
(だとしたら、人造吸血鬼の仕組みも……?)
疑いが濃くなる。もしかしたら……この地獄の世界は、誰かによって人為的に生み出されたものなのかもしれない。
そう認識した彼女は、純粋に怒りを感じた。
(赦せないわね……世界なんてどうでも良いけれど。家族を奪った事……後悔させて見せる)
決意と覚悟を改めて決めた彼女は、より建物の奥へと入って行く。
崩れた階段を綺麗に登りつつ、各部屋を確認する。
そうしている内に、違和感を覚えた。
(
彼らを全く見かけない。
普通は、建物の中であろうと彼らはいる。
そのために、近接用の人造吸血鬼がいるのだし、実際彼女も建物内での戦いを幾度も経験した。
それにも関わらず、この建物内には彼らがいない。
それが違和感であり、懸念でもあった。
もしかしたら……罠が待っているかもしれない。
(ここから先は、より警戒しないといけなさそうね……)
その時だった。
藍き血者でもない……そして人でもない気配が近づいて来るのを感じた。
(人造吸血鬼ね……私を探しに来たのね。殺すために)
上層部からすれば、彼女の行動は畏怖する事ではない。
だが……万が一を考えての事であろうと、察しはつく。
要するに、彼女を、アハト=ディソナンツ・キーラが何をしでかすかわからない事に、上層部は警戒しているのだろう。
それを再度認識しながら、彼女は気配を殺して隠れる。
――ここで死ぬわけには行かない。
(彼らがどのタイプにもよるけれど……必要であれば、殺すだけよ)