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第8話 情報を求め、彼女は建物を探索する

 内部は長年の経年劣化もあり、酷く荒れていた。

 その中を彼女は慎重に進む。足元には瓦礫や破片も多く、歩きづらいからだ。


(荒れすぎているわね。建物内だから? それとも?)


 警戒心をあげると、彼女は調査を再開する。

 散らかった書類等、当時の物を拾い上げては内容を確認して行く。

 古い言い回しが多い。


(相当昔の書類のようね)


 基本的な内容は、社外取引のやりとりや契約書等の類のようだった。そこから現在の状況に至るような情報は見受けられない。


(ここには何もなさそうね……うん?)


 ふと、一枚の紙切れに目がとまる。


「これは……殴り書きのメモ?」


 古い文字だが、読めなくはない。彼女は警戒しながら拾い上げ中身を読んでみた。そこには……


 ――地獄が始まる。

 ――盗まれてしまった。

 ――アレが流出したのだ。世界が終わる。

 ――人が壊れる。

 ――あぁ、神よ……


「盗まれた……流出した? つまり、このウィルスは……人為的なもの?」


(だとしたら、人造吸血鬼の仕組みも……?)


 疑いが濃くなる。もしかしたら……この地獄の世界は、誰かによって人為的に生み出されたものなのかもしれない。

 そう認識した彼女は、純粋に怒りを感じた。


(赦せないわね……世界なんてどうでも良いけれど。家族を奪った事……後悔させて見せる)


 決意と覚悟を改めて決めた彼女は、より建物の奥へと入って行く。

 崩れた階段を綺麗に登りつつ、各部屋を確認する。

 そうしている内に、違和感を覚えた。


藍き血者アオキチシャがいないのは……何故? 意図的? それとも偶然?)


 彼らを全く見かけない。

 普通は、建物の中であろうと彼らはいる。

 そのために、近接用の人造吸血鬼がいるのだし、実際彼女も建物内での戦いを幾度も経験した。

 それにも関わらず、この建物内には彼らがいない。

 それが違和感であり、懸念でもあった。

 もしかしたら……罠が待っているかもしれない。


(ここから先は、より警戒しないといけなさそうね……)


 その時だった。

 藍き血者でもない……そして人でもない気配が近づいて来るのを感じた。


(人造吸血鬼ね……私を探しに来たのね。殺すために)


 上層部からすれば、彼女の行動は畏怖する事ではない。

 だが……万が一を考えての事であろうと、察しはつく。

 要するに、彼女を、アハト=ディソナンツ・キーラが何をしでかすかわからない事に、上層部は警戒しているのだろう。

 それを再度認識しながら、彼女は気配を殺して隠れる。

 ――ここで死ぬわけには行かない。


(彼らがどのタイプにもよるけれど……必要であれば、殺すだけよ)

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