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第7話 覚悟を決めて

 アハト=ディソナンツ・キーラが姿を消した事実は、人造吸血鬼達に共有された。

 私欲にまみれ、自分勝手に藍き血者アオキチシャを狩っている――

 上層部にとって都合の良い、捏造された情報を流布し、指名手配とした。


 ****


 その頃。

 アハト=ディソナンツ、もとい、キーラは一人荒廃した街中を進んでいた。

 あの日。

 悲しみのあまり、記憶が定かではない。だが、愛する家族を手にかけた彼女は、静かに怒りを燃やしていた。


(間違いなく、私の話なんて誰も信じないでしょうね)


 適当な理由をつけて、自分を悪者にしているであろう。それくらいの察しはつく。それにすら憤りを感じるが、覆せないのは事実だ。

 一人では限界がある事くらい、理解している。

 それでも……


「この命が尽きるまでには、断罪してみせるわ……私から家族を奪わせた奴らを。必ず……」


 荒廃した街の中でも、かつて繁栄していた地域に来ている。その理由は一つ。ラヴェンデル・メテオーア社、通称R.M.社を探るためだ。

 というのも、今この国の安全地帯を形成しているのが、この企業だからだ。

 つまり、実質の統治者と言っても過言ではない。


(よく考えれば、一つの企業が一国を牛耳っているのが、そもそもおかしいものね)


 貧民層出身故、学のない彼女だが、それでも人造吸血鬼として生きる前からも、後からも、勘が鋭く飲み込みも早かった。文字も最初は読めなかったが、人造吸血鬼として任務をこなす間に、なんとなくで覚えてしまった。

 ――彼女は、非常に賢い。

 だからこそ、一人で全てを終わらせると決めた。その後、この国がどうなろうが知った事ではない。

 とにかく、彼女は少しでも正しく状況を知るために動いている。


(ここね……)


 崩れた外壁に、傾いたビルの跡。ここが、元々のR.M.社の本社だった所だ。壊れた看板にも、社名が薄らと名残りとしてある。

 中途半端に割れたドアのガラスを、更に割って入りやすくしてから中へと進む。

 受付だったであろう場所を通り抜けて、左奥の階段へ向かう。

 ところどころ崩れ、足場として悪くなっている箇所を器用に動いて、登って行く。

 このビルは七階建てだ。

 その全ての階を、根気強く一つ一つしらみつぶしに調べる。それしか方法がないからだ。


(急いでも仕方ないわ。藍き血者にだけ気を付けて進みましょう)


 どこに潜んでいるかわからない犠牲者達に、思いをはせつつも、覚悟なら決めて来た。

 今まで目を背けて来た、元は同じ人間であったという事実と、それを狩るという現実を――

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