今日も彼女は、荒れ地と化した街の残骸の中を進む。素早い動きで移動しながら、アハト=ディソナンツは自分用のAIに尋ねる。
「狩り場はどこかしら?」
AIがモードを切り替え、狩り場を探し始めた。しばらくして、AIが示したのは少し離れた場所だった。存外近い位置である事にやりやすさを感じたアハトは、軽やかな身のこなしで進んで行く。
たどり着いた先には、二匹の
(なるべく、苦しまずに終わらせてあげる……)
アハトは腰に下げていたナイフを抜いて、まず一匹へ向かって行く。小さめな個体だ。ナイフで喉元であっただろう部位に狙いを定め、襲いかかろうとした時だった。大きめな個体の方が庇うように立ちはだかった。
その光景に驚きつつ、まずは大きめな個体を倒そうとした時だった。
個体が……喋った。
『き、き、き、
「え……?」
何故、この個体は喋る事が出来たのか? そこも疑問ではあるが、問題はそこではない。
――キーラ。
アハト=ディソナンツの本名を、この個体は口にした。偶然にしてはおかしすぎるタイミングで。
嫌な予感が脳裏を過る。
(まさか……そんな! ありえない! あっていいはずがない!!)
彼女の予想は本来なら外れているべきであり、ありえない事。
だが……。
『オ姉チャン……お、オカ、エリナサイ』
小さい個体の言葉で、彼女の予想は決定的となり――絶望に堕ちた瞬間だった。
『アハト=ディソナンツ。早急に二匹を討伐して下さい。もう一度告げます。二匹を討伐して下さい』
いつもなら気にならない、AIの声が耳に響く。
世界が暗転し、視界が狭まる感覚に襲われる。
『アハト=ディソナンツ。戦闘中断は許可されていません。至急対応を』
「っさい……」
『アハト=ディソナンツ。戦闘を再開して下さい』
「うるさいって言ってんのよ!!」
アハトは、サーチ用AIを力の限り殴り、破壊した。地面に落下し警告音を発するのを、無視してアハト=ディソナンツもとい、キーラは声をあげて叫んだ。嗚咽しながら、彼女はナイフを手にする。
「赦さない! 約束だったじゃない! 保証するって! だから私は人を捨てたのに! なのに!」
寄って来る二匹、いや、母と妹を……涙を流しながら、手にかけた。
藍色の血をすする。
いつものように感じる甘美さが、余計に憎くて仕方ない。
「赦さない! アイツら! 私を改造した奴ら! 憎い! 私の家族を! よくも!」
(ただ殺すだけじゃすまない。断罪。苦しめて苦しめて、殺してやる! 罪を自覚するその瞬間まで! いや、自覚しようとも!)
――この日以来、アハト=ディソナンツ・キーラは休憩場に戻らず、姿を消した。