スヴェンヤからもらったクッキー、ショートブレッドをじっくり味わって完食した、アハト=ディソナンツは部屋着から寝間着に着替えるべく、シャワールームに向かった。
服を再度脱ぎ、素早くシャワーを浴びる。冷水が身体を冷やすが、人造吸血鬼である彼女には
というのも、人造吸血鬼となった者は等しく体温が低くなる。
その理由は明かされていない。もしかしたら、上層部は知っているのかもしれないが――
(今生きていて、それで家族が幸せなのならそれでいいわ)
彼女にとって、自分の事は既にどうでも良い。愛する母と妹が、長生きして人間としての生を全うしてくれれば良い。
それが、アハト=ディソナンツになった彼女の唯一の希望だ。
シャワーを浴び終え、寝間着である上下黒のスウェット姿となった彼女は、時計に視線を向ける。
時刻は、二十一時頃を差していた。
早めに横になる事を決め、洗面台で歯を磨き終えると灯りを消し、ベッドに寝転がる。
目を瞑り、夢を見る事すらせずに深く眠る。
これが彼女のルーティーン。
人造吸血鬼となってからの、日常だ。
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翌朝、六時十分。
自動でシャッターが上がり、太陽の陽射しが顔にかかって目が覚めた彼女は、静かに息を吐く。
上半身を起こし、気だるさを感じながらベッドから立ち上がる。
ストレッチを念入りにすると、寝間着から仕事用の服、つまりは支給服であるスーツへと着替える。
そして、武器を携えて自室を出て施錠されたのを確認すると、三階の奥の角部屋から下の階を目指して移動する。
今日も単独行動の予定である彼女は、一階に辿り着くと声をかけられた。
若い青年の声。
彼女にとって、あまり得意ではない
「よう! ディソナンツタイプは単独で寂しくないか? いつでもクヴァルテットになってくれていいんだぜ?」
「うるさいわ。私はあえてディソナンツを選んだの」
「冷たいなぁ! 俺は気に入っているんだぜ! お前の事をさ!」
「だからなに? 知らないわ」
更に話を続けようとする彼の横を通り過ぎて、すばやく自分用のAIを呼び出し、休憩場から出て行く。
遠くから声が聴こえて来たが、無視した。
彼女は自ら孤独を選んだ。
その覚悟を揺らしてくる彼が、苦手であり嫌いなのだ。
明確に嫌いな理由が自分都合なので、表には出さないようにしているのだが。
それでも、スヴェンヤからはわかりやすいと指摘されているし、自覚も
――出会い方が違っていればあるいは。