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第5話 久しぶりの遭遇は苦手な種類

 スヴェンヤからもらったクッキー、ショートブレッドをじっくり味わって完食した、アハト=ディソナンツは部屋着から寝間着に着替えるべく、シャワールームに向かった。

 服を再度脱ぎ、素早くシャワーを浴びる。冷水が身体を冷やすが、人造吸血鬼である彼女にはだ。

 というのも、人造吸血鬼となった者は等しく体温が低くなる。

 その理由は明かされていない。もしかしたら、上層部は知っているのかもしれないが――


(今生きていて、それで家族が幸せなのならそれでいいわ)


 彼女にとって、自分の事は既にどうでも良い。愛する母と妹が、長生きして人間としての生を全うしてくれれば良い。

 それが、アハト=ディソナンツになった彼女の唯一の希望だ。

 シャワーを浴び終え、寝間着である上下黒のスウェット姿となった彼女は、時計に視線を向ける。

 時刻は、二十一時頃を差していた。

 早めに横になる事を決め、洗面台で歯を磨き終えると灯りを消し、ベッドに寝転がる。

 目を瞑り、夢を見る事すらせずに深く眠る。

 これが彼女のルーティーン。

 人造吸血鬼となってからの、日常だ。


 ****


 翌朝、六時十分。

 自動でシャッターが上がり、太陽の陽射しが顔にかかって目が覚めた彼女は、静かに息を吐く。

 上半身を起こし、気だるさを感じながらベッドから立ち上がる。

 ストレッチを念入りにすると、寝間着から仕事用の服、つまりは支給服であるスーツへと着替える。

 そして、武器を携えて自室を出て施錠されたのを確認すると、三階の奥の角部屋から下の階を目指して移動する。

 今日も単独行動の予定である彼女は、一階に辿り着くと声をかけられた。

 若い青年の声。

 彼女にとって、あまり得意ではない種類タイプ……陽気な男性の人造吸血鬼、ドライ=クヴァルテットがそこにはいた。


「よう! ディソナンツタイプは単独で寂しくないか? いつでもクヴァルテットになってくれていいんだぜ?」


「うるさいわ。私はあえてディソナンツを選んだの」


「冷たいなぁ! 俺は気に入っているんだぜ! お前の事をさ!」


「だからなに? 知らないわ」


 更に話を続けようとする彼の横を通り過ぎて、すばやく自分用のAIを呼び出し、休憩場から出て行く。

 遠くから声が聴こえて来たが、無視した。

 彼女は自ら孤独を選んだ。

 その覚悟を揺らしてくる彼が、苦手であり嫌いなのだ。

 明確に嫌いな理由が自分都合なので、表には出さないようにしているのだが。

 それでも、スヴェンヤからはわかりやすいと指摘されているし、自覚もはある。

 ――出会い方が違っていればあるいは。

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